シークレット - 前田有一

◆自分の知らない妻の内面(70点)

 新品のパソコンを購入するのはいいものだ。トラブルも少なく、末永く付き合っていける。本来、それ以上の楽しみを知る必要はないのだが、何かの拍子に中古パソコンの魅力に取り付かれたら大変である。

 中身のパーツに意外ないいものが使われていたときの喜び。ときにはハードディスクの中にお宝を発見することもあるだろう。もしこれでまだ本体が比較的新しく、性能もよく、HDDだけ徹底的に使い込んでいるような固体に出会ったらたまらない。

 気に入ったパソコンが、過去誰に、どのように使われてきたのか。その歴史を味わうだけで好奇心と嫉妬心は際限なく刺激される。こうなるともう、新品のパソコンなど味気なくて買う気は起きなくなる。

 おや、余計な行間など読む必要はない。私はパソコンの話をしているだけだ。なのになぜ皆さん、そんなににやにやしているのだろう……。

 刑事ソンヨル(チャ・スンウォン)は、マフィアのボスの弟の殺害現場で、妻(ソン・ユナ)がつけていたイヤリングの片方を発見する。そういえば昨夜、彼女の帰宅は思いがけず遅く、服は乱れ、イヤリングを落としたなどといっていた。事件に深くかかわっている事を直感したソンヨルは、警察の捜査およびマフィアのボスの復讐から、妻を守らざるを得ない立場に追いやられる。

 愛する妻が、何かを隠している。それは、昨夜の殺害現場になぜ彼女がいたのか、といった表面的なことだけではない。殺されたのはなんといっても犯罪組織のボスの身内。そもそも、なぜそんな危ないシーンに平凡な主婦である清楚な妻が登場するのか。明らかに重要な情報が、自分が脳内に持つ妻についてのデータベースから抜け落ちている。

 まともな人生を送ってきたであろう清純な女の子が、じつは過去に何人もの男と愛憎のドロドロにまみれ、特殊な性癖を仕込まれていた……。なんて事実を知ったとかであればシャレにもなるし、ある意味よけいにその子にハマりこむ契機になりかねないが、人殺しの現場にいたというのはさすがにまずい。

 主人公は自分の知らぬ妻のダークサイドを薄々感じ取りながらも、愛(とじつはもうひとつ秘密=シークレット、の感情)により、妻を守り続ける。

 徐々に謎ときのパーツはそろって行くが、この映画にでてくる連中はみなひとつか二つ、秘密を抱えている設定がポイント。謎が解けるたび、驚きの真相が明らかになるが、それは次の謎あかしにより、あえなくひっくり返されてしまう。終盤の二転三転は、ミステリ、サスペンス好きにはたまらない展開といえる。

 韓国名(カタカナ表記)と顔が覚えにくい、苦手という人は、「え、それって誰だっけ」とならぬよう、序盤から注意して暗記していくことをすすめる。でないとせっかくのどんでん返しの衝撃を楽しめない。

 奥さんを追うのが、主人公の同僚たる警察とマフィアの2団体、という点がユニーク。両者よりも早く、真相に到達しなければ妻を守れない。この制限事項がスリルを生む。この2者。どちらも強敵だが、とくにマフィアのボスが切れ者で、かつ残虐。見つかったらまともな殺され方はしないだろうから恐ろしい。

 奥さんを演じるソン・ユナは30代後半ながら清純派を絵に描いたような美人女優であり、この子をこいつらから守るためなら……と男の観客は皆奮い立つだろう。かつて常勝無敗の狩人と呼ばれた私とて、こんな美人が奥さんであれば、過去にあんなところやこんなところを誰かに調教されていたとしても命がけで守る。ちなみにこれは私の勝手な妄想であり、この映画のヒロインとユナさんにそういうエロい過去は(たぶん)ない。

 それぞれの登場人物の持つカードが明らかになったとき、真相も観客に知れる。エンドロールの最後まで目が離せないよくできたサスペンスだ。ただ唯一、それでも整合性の部分で釈然としない部分が残る気がするのが惜しい。すっきりとすべての謎と伏線がラストで消え去る快感があれば、なおよかったのだが。

前田有一

【おすすめサイト】