◆女が同じ場所を何度も通ったり、ショーウインドウに映る男を認めたりするたびに、男はばれるのではないかという緊張感と見失うのではという焦燥感に襲われる。その感情が絡み合い、映画はただならぬサスペンスに満たされる。(40点)
カフェで偶然見かけた女の、男は後をつける。通りを渡り、繁華街を抜け、迷路のような裏路地を足早に歩く彼女を、少し距離を置いて追う。そのお世辞にも上手とは言えない尾行術は、女がいつかは男の存在に気付くのではないかという予感をはらみ、顔のアップと遠景の繰り返しでセリフがほとんどない展開の乏しい映像に奇妙なテンションをもたらしている。女が同じ場所を何度も通ったり、ショーウインドウに映る男を認めたり、突然振り返ったり立ち止まったり、角を急に曲がったりするたびに、男はばれるのではないかという緊張感と見失うのではという焦燥感に襲われる。彼のそれらの感情がみごとに絡み合い、映画はただならぬサスペンスに満たされていく。
古い街に投宿する男はスケッチブックを手にオープンカフェで時間を潰している。鳥の糞から逃れるために席を移動すると、心に引っかかる女が目に入る。店を出て街の中心部に向かう彼女の後姿を、男は追い始める。
男は以前この町に滞在したことのある旅人なのだろう。しかし、今は知る人はいない。誰を探し何を求めて来たのかは一切明かされない。そして、大勢の人々が笑顔を見せ、思い思いの会話を弾ませる中、ひとりノートに鉛筆を走らせる彼の姿は、言い知れぬ孤独を象徴する。そんな時見つけた彼女は、彼が覚えている唯一の知人。だが、その記憶に自信が持てずなかなか声がかれられない。男の胸に去来する逡巡や動揺をカメラは捕らえるが、なぜ彼がそこまで女に固執するのか説明がない分、見る者の想像力が掻き立てられる。
やがて路面電車で男は彼女に声をかけるが、まったくの人違いだった上に、彼女はずっと男に気づいていて不気味だったと告白する。その後、二言三言言葉を交わして別れるのだが、男の未練は翌日もまた彼女を探させようとする。たったこれだけの話、30分程度の短編ならば映画に対する興味を持続できたのだが、この内容で90分近い上映時間集中力を切らさないようにするにはかなりの努力が必要だった。
(福本次郎)