シャーロック・ホームズ - 岡本太陽

◆ガイ・リッチー監督作のホームズは喧嘩が強い!?(70点)

 もう数えきれない程、映画化やテレビシリーズ化されている現代推理小説の生みの親アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」。ベーカー街221Bにあるハドスン夫人の所有するアパートに住む細身の長身で、エレガントな風貌の私立探偵という基本的なホームズらしさを踏襲しつつも、主人公ホームズ像も作品によって様々に工夫されてきた。

 そしてゼロ年代最後を間近に、全米で公開されるのがガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ(原題:SHERLOCK HOLMES)』。過去の同作品とは一線を画す本作は、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』のリッチー監督映画らしく、暴力を含むアクションシーン満載で、なおかつコミカルなエンターテイメント性の高い作品となっている。

 今回シャーロック・ホームズに扮するのは『アイアンマン』を大ヒットに導いたロバート・ダウニー・Jr.。想像出来る通り、彼のホームズは今までのホームズ像を覆すマッチョな体だ。彼は何かすっきりしない事があると、ファイトクラブの様な格闘場に行き、ストレスを発散する。なんとこのホームズはマーシャルアーツのスキルに長けているという設定なのだ。それはかなり無茶な様にも感じられるのだが、実際原作には多少のマーシャルアーツを使ってホームズが敵を倒す姿が描かれているという。

 そのダウニー・Jr.的ホームズの興味深い特徴はまず冒頭に現れる。オカルト的な儀式が執り行われている教会で、近づいて来る悪者を暗がりで隠れて観察するホームズがいる。彼はその男をどうやって打ち負かすか頭の中でシミュレーションし、その映像はスローモーションとして映し出される。彼は過去に起こった事を完璧に推理する能力を持つが、自らの能力を踏まえ何が起こるのかも性格に予測する能力も持っているのだ。そして彼がイメージした攻撃は首尾よくに遂行される。 

 また彼の衣装も今までと違い独特で、今回はまるで洒落た芸術家か詩人の様だ。その風貌と同様、佇まいもどこか自由人的で、言動がとてもリラックスしている。それはダウニー・Jr.の代表作『アイアンマン』のトニー・スタークや『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウを連想させるものである。それに加え、賢く、セクシーでシャーロック・ホームズはダウニー・Jr.にとってのアイアンマンに継ぐアクションヒーローとしての素質を感じさせる。

 ホームズと言えば、同居人で親友の医者ジョン・ワトソン。口髭を生やしたジュード・ロウ扮するワトソンは、ホームズの面倒見役、またそれでいてホームズ同様スリルを求める人物という印象を受ける。そんな彼は婚約者のメアリー(ケリー・ライリー)がいるが、ホームズはそんな彼女に少々や気持ちを妬き、彼女に不適切な言葉を投げる事も。これは物語の舞台である1981年でも現代でも変わらない、男同士の強い絆の間に入って来る女性に起こる現象だ。

 今回悪役はマーク・ストロング扮する主に黒革のジャケットを着用したブラックウッド卿という貴族の男。彼は秘密結社を結成し、魔術で世の中を操ろうと企み、ホームズを手こずらせる役どころ。このブラックウッド卿は現在までに多くの人々に影響を与えたアレイスター・クロウリーという実際にいた人物が基になっており、邪悪で不気味な人物として描かれるが、不気味さだけで言えば、クリスピン・グローヴァーあたりの方がもっと雰囲気が出たのではなかろうか。

 推理能力は論理的に物事を処理していくという力だけでは、きっと説明出来ないものだろう。現場に赴き五感を働かせヒントを得、それを頼りに過去の状況をイメージし、自分の感覚で答えを探し出していくという作業はどこかスピリチュアルなものすら感じる。そして今回のホームズの敵は魔術を使う男。そのホームズ対ブラックウッド卿はちょっとしたスピリチュアル対決と呼べるものかもしれない。

 レイチェル・マクアダムズ扮するアイリーン・アドラーはホームズが唯一抵抗出来ない美しく危険な女性。マクアダムズは普段、女の子っぽい役を演じる事が多いが、今回はチャーミングでありながらも大人の色気のある女性を好演し、完璧なまでのアイリーン像を作り上げる。それにしても今回の『シャーロック・ホームズ』のホームズ、ワトソン、アイリーンは、近年では『パイレーツ・オブ・カリビアン』のスパロウ、ウィリアム、エリザベスを彷彿とさせる。やはり男2人と女1人の方程式は物語を面白くさせるバランスの良い組み合わせなのだろうか。

 ガイ・リッチーはマドンナとの結婚期間中はまるで映画が当たらなかった。しかし、本作は子供から大人まで楽しめる易しい時代冒険活劇。続編が制作されるのも確実で、彼にとっては最も興行的に成功するであろう作品。やっとマドンナの呪縛から逃れたのか。次回はホームズのパンチやキックをさらに大きなスケールで見せてくれる事に期待したい。

岡本太陽

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