シャネル&ストラヴィンスキー - 小梶勝男

◆シャネルのファッションで全てが彩られた絢爛たる世界。ストラヴィンスキーもシャネルの世界の構成物の一つに過ぎない(80点)

 人物としてのココ・シャネルと、ファッションとしてのシャネルは、どちらが先なのだろうか。無論、普通に考えれば人物としてのシャネルが先に違いない。だが我々は、直接的にも、同時代的にも、ファッションとしてのシャネルは知っているが、人物は知らない。すでにこの世のものでない人物に到達するためには、ファッションを介するしか方法がない。我々にとっては、ファッションが先なのである。

 とすれば、作品がシャネルに到達するためには、美術と衣装の映画にならざるを得ない。本作はまさにそんな映画だ。シャネル社の全面的な協力の下、本物のシャネルの衣装やアクセサリーを使い、再現すべきものはシャネルのデザイナー、カール・ラガーフェルドが作成している。パリにあるシャネルのアパートでも撮影が行われた。この絢爛たるココ・シャネルの世界では、天才ストラヴィンスキーも、ニジンスキーも、シャネルを巡る人物の一人に過ぎない。

 1920年のパリ。シャネル(アナ・ムグラリス)は余りに独創的なため酷評された「春の祭典」を見て、ストラヴィンスキー(マッツ・ミケルセン)の才能に興味を惹かれる。シャネルはストラヴィンスキーを妻子と共にパリ郊外の別荘に招待する。やがて2人は体の関係を持つようになる。

 本作に登場するものは全て、シャネルの趣味に彩られている。それは衣装や装飾品にとどまらない。彼女のアパート、別荘、それを取り巻く風景、さらにはパリ全体が彼女のデザインの中にあるように思えてくる。ストラヴィンスキーもまた、ここでは「シャネルの趣味の一つ」になっている。その妻子とシャネルの緊張した人間関係も、シャネルによってデザインされたものだ。デザインが物を超えて、人間関係や生き方に広がっていくところがスリリングで面白い。

 「ドーベルマン」(1997)でスタイリッシュな映像を見せたヤン・クーネン監督は、徹底してシャネルの趣味で映像を塗り固める。それが本作の最大の見どころだろう。主演のアナ・ムグラリスはシャネルを演じるよりむしろ、シャネルのデザインそのものになることによって、見事にシャネルに到達している。必要なのはシャネルの部屋でシャネルを着こなす佇まいなのだ。

 このどこまでもシャネルの世界が展開された映画は、シャネルが好きな人にはたまらないだろう。一方で、ストラヴィンスキーのファンには物足りないかも知れない。あの天才作曲家が完全にシャネルの世界の構成物の一つとなっているからだ。

 しかしこれはシャネルを楽しむ映画なのだから、仕方がない。ラストのカットなど、意味不明な場面もあるが、そこにこだわることに意味はない。画面からシャネルの5番の香りが漂ってくるような雰囲気を味わって欲しい。

小梶勝男

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