◆束縛を嫌い、命令を拒み、短慮であるが、人を楽しませる愛きょうもある。そんなヒロインの、魅力的とは言い難い人間的な素顔に迫る。その過程で彼女が口ずさむ親しみやすいメロディが、見終わった後も耳から離れなかった。(60点)
正しいと思った道理は曲げられない、「心の声」に従って生きるヒロイン。数々の軋轢と挫折、それでも信念を貫こうとする意志の強さは一種変人のようですらある。物語は修道女でありながら自作の歌で世界的ヒットを飛ばした彼女の波乱に満ちた半生を丁寧に追う。束縛を嫌い、命令を拒み、短慮であるが、人を楽しませる愛きょうもある。そんな実在の人物の、あまり魅力的とは言い難い人間的な素顔に迫る。その過程で彼女が口ずさむ親しみやすいメロディが、見終わった後もしばらく耳から離れなかった。
アフリカ行き夢見るベルギーの少女・ジャニーヌは家出をして修道院に入る。厳しい規則と味気ない修養生活の中、そこでも息苦しさを感じジャニーヌは修道院長とたびたび衝突する。しかし、ギター片手に作詞作曲した「ドミニクの歌」が注目を浴びる。
自信に満ち溢れ、運命は己の力だけで切り開けると信じているジャニーヌは鼻もちならない少女。修道院に入っても勝手な行動を改めないなど、自ら決心して入門したの驚くべき自覚のなさ。だが、「従順の掟」を破るほどの強い気持ちがあったからこそ名曲が生まれたのも事実。映画は、できるだけ彼女の実像を再構築しようとする一方、彼女の態度にどんな評価も下さない。成功者としての栄光も、後の凋落も客観的な視点から同列に扱い、ジャニーヌという強烈な個性を浮き上がらせる。
やがて「ドミニクの歌」は大ヒット、米国からも取材が来るほどの社会現象となる。和解に訪れた両親を冷たく突き放すシーンは、邪魔するものは親でも許さない彼女の哲学を象徴する。そしてほんの資金稼ぎ程度に考えていた教会上層部は戸惑い、下界でスターになっていたことを知らされなかったジャニーヌは激怒して修道院を離れる。苦難が待ち受けていても歌を通じて理想をを広めようとする自分を、古の聖ドミニコになぞらえようとしたのだろうが、我を通すばかりではなく、他人とのかかわり合いの中では妥協の必要性も学ぶべきだった。
(福本次郎)