わが子のすこやかな成長を願う親御さんにとっては、このような映画を見せて情操豊かな子に育ってほしいところ。(点数 75点)
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人間とマペットが共存する不思議な世界がこの映画の舞台。
人間のゲイリー(ジェイソン・シーゲル)とマペットのウォルターは兄弟として育った。ウォルターはマペットショーの熱狂的なファンなのだけれど、ゲイリーと結婚間近のメアリー(エイミー・アダムス)と3人でロサンゼルス旅行に行くのだが、楽しみにしていたマペット・スタジオは蜘蛛の巣が覆い寂れ果てていた。マペット・スタジオは債権者の奸計により今や売却の危機に直面していた。ウォルターはかつてマペット・ショーのリーダーだったカエルのカーミットの屋敷を訪れチャリティショーを開催してマペット・スタジオを守ろうと提案するのだが...。
観ていてセサミストリートを思い出した。
子ども向けではあるのだが、ミュージカルにStarshipの「We Built This City」を選曲していたりして、大人が懐かしめる内容にもなっている。
遠距離を移動する際に地図上で線をなぞることで一瞬にして移動したものとする演出を逆手に取った楽屋落ちのような笑いは今までに映画をたくさん観た者だからこそ笑えるシーンであって、これは単純に子どもだけのための映画では無いことが窺い知れる。むしろ人形劇を観て育ったお父さんお母さんが、子どもに自分達がどんな気風の中で育ったのかを子どもに伝えたい、そんな親子の間のギャップを埋めてくれるのが本作である。”将を射んとすれば馬を射よ”、とあるように、まさに親御さんが子どもに見せたくなるような映画作りになっている。
子どもにはトムとジェリーのように目まぐるしく動くもの、軽いスラップスティックがうけるのだが、楽屋落ちのような笑いも用意しているのは明らかに大人にも楽しめるよう意識して創られている。
大人の視線を意識して創られているのは大人も子どもも一緒に楽しめる映画造りを目指したからのように思われる。
最初は人間とマペットが共存することになんの説明も無く当たり前として描かれるのだが、そもそもミュージカル自体が非日常的表現なので、あり得ないと批判することが馬鹿らしく思ってしまう。なので人形が喋っていでもそういう世界なんだと映画と鑑賞者の間に比較的簡単に合意形成が出来る。また子どもにとってはぬいぐるみが普通に喋り動き回る世界こそが現実よりもリアルな肌ざわりを持った世界。子どもにはこの映画の世界こそが本当のあるべき姿なのだと思うのかも知れない。
この映画のなかで唯一の悪役である債権者(クリス・クーパー)が善人になってしまう経緯があまりにもイージーで確信犯的な手の抜き方はやはり過程よりも結末を知りたがる子どもに合わせたストーリーになっていると言えるだろう。
只、ミュージカルである以上吹き替えは難しいし、子ども向きなのに字幕版というのがこの映画の難点というところか。字幕を難なく読み下せる小学校低学年の児童って限られそうだ。セサミストリートを観る感覚で鑑賞するなら納得出来るとは思うが。ぬいぐるみが動くだけで楽しく思えてしまうのも子どもの特権だ。
ウォルターが内気な故に自分の凡庸さを嘆いているのだけれど、意外な特技を披露してショーのトリを見事に務めてみせるのだが、そんな特技を持っているのならなんで悩んで居たのかがよく分からない。韜晦なんてしなくてよいのだよと。伏線が張られていないので大人にはしらけてしまうのだけれど、素直な子どもには感動してしまうのだろう。
大人の鑑賞に耐えうる映画とまでとは言わないけれど家族で楽しめる映画であるとは言えそうだ。
(青森 学)