ザ・マスター - 青森 学

対立しつつもお互いを必要とする人間関係に一筋縄ではいかない人生の難しさを感じる(点数 75点)


(C)MMXII by Western Film Company LLC.

無駄な性描写が多くてげんなりする。
そういうシーンを用いることが人間を描いていると監督が考えているのなら、やはり底が浅いと言わざるを得ない。
ファンサービスくらいだと好意的に受け取ったほうがよいのか。
ただ、放蕩を重ねる主人公が結婚を約束した女だけは清い関係を守るのだけれど、その対比としての奔放な女性関係を描いているのであればそれは演出として首肯できる。

主人公は軍医からロールシャッハテストを受けた後、精神病院へ入院するカットが一瞬あるのだが彼はPTSDを負っていたのかも知れない。
その後、放浪の旅に出て彷徨の果てにマスターと出会うのだが、主人公がマスターを崇拝しながらも真逆の性格であるためにお互いを必要としつつも反発しあう。
そんな中でもマスターの施術に己の救済を見た主人公は彼を信奉するようになる。

一見、催眠療法と同じに見える催眠術を覚醒の手段としてマスターはよく信者に施術していくのだが、マスターに懐疑の目を向ける人には容赦なく攻撃する主人公が中島敦の小説の登場人物とダブって見える。

中島敦の『弟子』にある孔子と門弟子路のような思慮深い師と直情的な弟子の関係と似ているのだが、そこは欧米人なだけあって孔子と子路のような絶対的な師弟関係にはなっていない。
マスターが打ち立てたザ・コーズという宗教団体の存在意味が是か否かはともかくマスターは赤心から世の中を良くしたいと思い布教活動を続けている寛容な人物なのだが、主人公は彼に心酔すれども彼の生き方とどうしても馴染まない。
尊敬しつつも決して同化することはない人間の無力さ滑稽さがにじみ出ていて身につまされる思いがする。

主人公がオートバイで砂漠を疾走するシーンがあるのだが、そのシーンが一番主人公の心の中を具象化している風景だったように思う。
結局、主人公は帰るべき家を失い、また帰るべき女もいない。
そんな彼を受け入れるのが、マスターの主宰する宗教団体だったのだが、主人公を収容した擬似家族のなかで感性が相反するマスターと主人公の相克が上手く描かれているように感じた。

青森 学

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