◆今回のロメロ作品はゾンビ西部劇だ!(70点)
『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『ザ・クレイジーズ』等ジョージ・A・ロメロ監督作のリメイクがチラホラ見当たる昨今。彼の作品に影響を受けた映画監督は数多くいるが、若い世代にはゾンビ映画の巨匠の生み出した世界観を体現するのは難しく、リメイクものはどれも芳しくない印象。それを余所見に巨匠は70歳の今もなおゾンビ映画にこだわり作品を作り続ける。そして新しく彼のライフワークの仲間入りを果たしたのが『サバイバル・オブ・ザ・デッド(原題:SURVIVAL OF THE DEAD)』。各地で議論を巻き起こした前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』のその後を描く。
突如死者が生きる人間を襲い始めて4週間、世界は崩壊へとまっしぐら。主人公サージ(アラン・ヴァン・スプラング)は秩序を失った軍を抜け出し、仲間と強盗を重ねながら命をつないでいる。そんな中、出会った1人の少年(デヴォン・ボスティック)はある重要な情報を握っていた。プラム・アイランドと呼ばれる楽園の様な島があり、そこにはゾンビが全くいないという。半信半疑のまま船でその島を目指すサージ一行だが、島に着くやいなやある抗争のとばっちりを受けてしまう。
ノロノロと歩くゾンビがまるでトレードマークの様に登場するものの、毎回違うテーマを提供するジョージ・A・ロメロ。『ランド・オブ・ザ・デッド』では覇権主義により生まれた大きな貧困の差を描き、『ダイアリー・オブ・デッド』では主観撮影(POV)を用い混乱のまっただ中に観客を放り込んだ。そして今回彼が彼が新たに放つのは、なんとゾンビ西部劇。楽園であるはずのプラム・アイランドに足を踏み入れた主人公達がそこに暮らす2つの一家の抗争に巻き込まれる様を描く。
マルドゥーン(リチャード・フィッツパトリック)率いるグループはゾンビを飼いならし、人肉ではなくそれに代わる新しい食料で彼らを養おうとする連中。方やオフリン(ケネス・ウェルシュ)率いるグループはゾンビを皆殺しにしようとする。小さな島の中で異なる2つのアイデアが対立し合う様は今も昔も変わらないわたしたち人間の姿。ごく最近ではアメリカはアリゾナ州で移民を圧迫する法律が制定された事により反対派が猛反発している様に、ロメロは常に現代社会を寓話的に描きだそうとする。ロメロ映画は目に映るものよりも物語の奥に隠された要素を知る事が最も大切なのだ。
またロメロの作品に欠かせないのは全編に散りばめられたユーモア。ホラー映画であるにも関わらずどこかコミカルで、怖いというよりは可笑しいという印象の方が強い。それはロメロ自身のチャーミングな性格が影響しているのだろう。新作『サバイバル・オブ・ザ・デッド』でもそのユーモアのセンスは存分に発揮されており、リメイクを手掛けた若手映画監督との「違い」を改めて伺い知る事が出来る。
(岡本太陽)