サウンド・オブ・サンダー - 前田有一

見方を間違えなえれば楽しめる(75点)

 『サウンド・オブ・サンダー』は、まさにこのサイトのような事前レビューの役割を問われる一本といえる。というのも、この映画を予告編や、雑誌の無難な紹介記事の印象だけで期待して観に行くと、かなりの確率で外すと思われるからだ。

 しかし、適切な内容の事前レビューを読んで、期待すべき点を間違えずに劇場に出かければ、じつはこれ、けっこう満足できる作品なのである。今これを読んでいる皆様に、そのあたりを適切に伝えられるよう、私としても全力を尽くしたい。何しろ今週は、ただでさえ公開作品が少ない上、たまたまTV出演や取材が重なり、私自身、ほとんど試写会場に出向くことができず、紹介できるのがこれ1本きりなのだから(次週からは元に戻ります)。

 この映画の舞台となるのは近未来、西暦2055年だ。この時代、金持ちの流行といえば、タイムトラベル。まあ、今でいうホリエモンらIT成金たちが、ありあまった金で宇宙旅行に行くようなものだ。宇宙旅行といいながら、実際は大気圏外にちょびっと出て放物線飛行を行い、数分間の無重力体験ができる程度であるように、この映画の中で行われるタイムトラベルというのも、決してドラえもんよろしく、好きな時代に自由にいけるレベルのものではない。旅行会社が設定する「ツアーコース」は、毎回同じ場所、同じ時刻に数分間だけ、わずか1メートル程度の幅の「エリア」のみ。そこへ、ガイドの先導で出かけるという趣向なのだ。

 具体的には、この体験ツアーの客たちは、白亜紀のある場所にタイムトラベルし、そこで1匹の恐竜を銃でハンティングして、すぐ帰ってくる。その恐竜は、もともとその沼で死ぬ運命にあり、未来から出向いて殺したとしても、歴史には干渉しないというわけである。このように、歴史の改変に関しては、ツアー会社によって、とても厳しい決まりと、幾重もの安全策が講じられている。

 ところがあるとき、ハプニングが起きる。あるツアー客が、「エリア」からはみだし、過去の時代から「1.3グラムの何か」を持ち帰ってきてしまうのだ。その結果、人類と生物の進化の歴史に致命的な衝撃をもたらし、現代の世界は崩壊の危機に瀕してしまう。

 そこで主人公の旅行ガイドたちは、「1.3グラムの何か」をつきとめ、何とか時間の流れを元に戻すべく、奔走するというわけである。これだけ見ると、なにやら壮大なSF超大作の趣きを感じてしまうだろう。確かにこれは、100億円近い製作費を投じた超大作ではあるのだが……。

 また、原作が大物SF作家レイ・ブラッドベリ(代表作『華氏451度』は、マイケル・ムーア監督『華氏911』の題名の元ネタとしても有名だ)の傑作『いかずちの音』だという点も、とくにマニア層が過度に期待してしまう原因といえるだろう。

 しかし、はっきり書いておかねばらないのは、『サウンド・オブ・サンダー』は、人類の滅亡を描く大スペクタクルにしては、相当こじんまりとしており、どちらかというとB級SF映画に近い雰囲気だということだ。

 なにしろコレ、製作途中でプロダクションが倒産し、チェコでの撮影隊は水害で多大な被害をうけ、何度も完成が延期されたいわくつきの作品。本来、そのままお蔵入りになってもおかしくない、トラブル続きの悲運の映画だったのだ。しかし、職人監督で知られるピーター・ハイアムズがなんとか完成にこぎつけたという経緯がある。製作費100億円といっても、額面どおりに受け取れない事情があるわけだ。

 だから、場面によってはチープなセットや、完成度の低い合成映像が目に付くこともある。一般的な超大作のイメージで観に行くと、そうした要素がマイナスとして写ってしまうから、観る前には「これは予算不足だったのに、頑張って作り上げた映画なんだ」ということを思い出し、心の準備をしておいてもらいたい。

 そう考えてみれば、随所に工夫の施された、なかなかの一品ということが良くわかる。たとえば、過去の改変により現代が大変化を起こす場面は、「時間の津波」という秀逸な映像表現によってなされているし、その変化自体も、同じ部屋のセットに、徐々に荒廃の度合いを加えていくという、わかりやすい(かつリーズナブルな)演出によって、画面に写らない地球全体のカタストロフィまで観客に想像させている。

 後半は、科学の想像を越えたクリーチャーたちに主人公チームが追われる、アクションホラーのごとき展開となるが、このあたりからは、作品全体のスケールダウンを必死にカバーして、なんとかお客さんを喜ばせようという気概が感じられる。確かに予算不足は否めないが、どこにカネをかけるべきかという、配分に関しては成功しているといえよう。大風呂敷を広げなかった事が、結果として奏功した。

 もっと終盤は思い切り感動的にしてしまっても良いかとは思うが、なにしろ骨組みとしてのストーリーが優れているから、最後まで楽しく見ることはできる。

 『サウンド・オブ・サンダー』は、見た目の構成部品はすべて2級品かもしれないが、監督による組み合わせのバランスが見事で、意外に良くできている。チープな素材で作った安いハンバーガーでも、うまいものはうまい。せめてパンだけ高級にしよう、などと色気を出せば、バランスが崩れて失敗する。それと同じだ。この映画の監督は、そういうことはしなかった。

 この映画は、大スクリーンで週末に気楽に見るエンタテイメントとして、なかなか良くできている。重厚なパニック超大作を期待してはいけないが、1本でSFもホラーもアクションもまとめて楽しめると思えば、お得感もバッチリだ。もし私だったら、こういう映画は週末のドライブインシアターで、大音量で楽しみたいと思う。

前田有一

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