サウスバウンド - 福本次郎

◆「ナンセンス!」の一言で公権力の介入を切り捨てる。もはや絶滅種の過激派の生き残り、中年を過ぎても国家や資本家との闘争を止めようとしない。自分が正しいと思ったことは曲げないオッサンの姿を通じて家族のあり方を問う。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 「ナンセンス!」の一言で公権力の介入を切り捨てる。もはや絶滅種ともいえる過激派の生き残り、中年を過ぎてもその思想にはブレはなく、国家や資本家との闘争を止めようとしない。時代遅れだが、自分が正しいと思ったことは絶対に曲げないオッサンの姿を通じて家族のあり方を問う。どんなことがあっても男に従う妻、ウザイと思いつつもいつしか父の強さに憧れる子供たち、そしてそのポリシーはいつしか賛同者を増やしていく。子供、特に息子は父の背中を見て育ち、父は身をもって男の生き方を息子に示す。社会の不正に意見する一方、子供を守ろうとする姿勢が過激なほど家族の絆は強まっていく。そんな主人公を豊川悦司が好演している。

 一応、文筆業の一郎は80年代のアナーキスト、今は妻の稼ぎで暮らし3人の子を育てている。ある日、息子の二郎が不良にいじめられてる友人を助けようとして大怪我をさせたことから、西表島移住を決意する。

 父を見る息子・二郎の視線の変化を通じて、観客もまた一郎の人物観を変えていく。家でぶらぶらして妻の稼ぎにぶら下がっているような男だが、先生の汚職や官僚の腐敗には敏感で騒ぎばかり起こしている。しかし、二郎が起こした傷害事件には息子の正義を疑わず体を張って守ろうとする。口先だけではなく行動で自らの信念を示すことで、一郎は自分の頭で考え心で判断したことを実行に移す大切さを息子に伝える。東京を離れるときの二郎と友人の恥じらいながら友情を確認するシーンのぎこちなさは、完全ではないが確実に一郎の想いが二郎に伝わっていることを示している。

 西表島でも一郎はリゾート開発業者と戦い、家族の生活を守ろうとする。残念ながら撤退を余儀なくされても決して弱気や卑屈を表に出さず、戦いをあきらめない。最後に「お父さんを見習うな」と釘を刺しつつ、「汚い大人になるな、間違いとはとことん闘え」と二郎に言い残し大海原に旅立つ一郎に真のヒーロー像を見た。しかし残念ながら現代ではその姿は滑稽にしか見えないところに、この作品の強烈なエスプリを感じた。

福本次郎

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