◆良作『サイドウェイ』を日本人向けにアレンジ(70点)
小品ながらもアカデミー賞、ゴールデングローブ賞など数多くの賞に輝いたハリウッド映画『サイドウェイ』(04)のリメイク版。冴えないシナリオライターの道雄(小日向文世)とお調子者の大介(生瀬勝久)が、カリフォルニアのワイナリー巡りをする中で、麻有子(鈴木京香)とミナ(菊地凛子)に出会う。大介とミナは早々にデキてしまうが、小心な道雄の方は……。
舞台は全編カリフォルニアで、4人の主要な登場人物を除けば、キャストもスタッフも米国人ばかり。日本映画には珍しいそんな製作方法が、一部で大いに注目された作品だ。まずはキャスティングを讃えておこう。小日向、生瀬、鈴木、菊地は、いずれもオリジナル版のキャスト(順にポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ、バージニア・マドセン、サンドラ・オー)の雰囲気をよくとらえている。
ただ、似ているのはそこまでだ。確かにストーリーの大枠はオリジナル版を踏襲しているが、上杉隆之の脚本には、よく言えば日本人向けのアレンジが施されており、それがゆえにいささか陳腐にもなった。エッジの利いたカリフォルニアワインに、なじみの甲州ワインをブレンドしたら、飲みやすいけどありきたりの味になってしまったというところか。
たとえばオリジナル版では、互いに離婚の傷を抱えた中年男女(ジアマッティとマドセン)が、ぎこちなく、慎重に距離を詰めていく過程が心に染みた。ところが日本版の道雄と麻有子は、かつての家庭教師と生徒という間柄。「ボーイ・ミーツ・ガール」という状況が日常的ではない日本人向けには、「甘酸っぱい再会」をベースにした方がドラマになるという判断だったか。
オリジナル版のマドセンがしがないウェイトレスだったのに対し、麻有子をキャリアウーマンに設定したのも大きな変更点のひとつ。上杉はそこに「米国で自己実現を目指す日本女性の気負いや迷い」という独自のテーマを盛りこんだ。それが悪いとは必ずしも思わない。4人のキャストも好演しており、この物語に初めて触れる観客であれば十分に楽しめるだろう。ただしオリジナル版の深い味わいを知る方々には――いくつかの名シーンが割愛されていることもあって――あえてお勧めしなくてもいいかなとも思うのだけれど。
(町田敦夫)