◆WHDジャパンのオリジナル・ホラー第1弾。「アンダルシアの犬」(1928)以来の目玉切り裂きシーンが見もののJトラッシュ(55点)
この映画は劇場未公開映画です。評価の基準は未公開映画に対してのものとなります。
関西の残虐ホラー製作会社・WHDジャパンの記念すべきオリジナル・ホラー第1弾。本作の後、「鬼殻村」(2009)「腐女子」(2009)と続き、現在(2010年1月)第4弾が企画されている。
私はそろそろWHD作品を、ユーロトラッシュに習って、「Jトラッシュ」と呼んでいいと思う。トラッシュは「クズ」という意味で、「日本のクズ映画」としか訳しようがないが、無論、悪口でそう言っているわけではない。ヨーロッパのB級~Z級のホラーやサスペンス、エロ映画を再評価するための言葉がユーロトラッシュだったのと同様、Jトラッシュも評価するための言葉であり、いささかの賛辞も込めているつもりだ。
もちろん、メジャーの製作会社の作品に比べ、予算も時間も極端に少ない中で作られた作品群であり、一般の映画ファンからはバカにされて仕方ないレベルであるとも思う。しかし、インディペンデント・ホラーは、メジャーのように倫理的な規制に縛られていないため、思い切り残酷だったり、非道だったり、下品だったり、えげつなかったりするストーリーや描写が期待できるのである。それは極めて低次元の欲望ではあるが、「世間の目」を無視できる自由さとも言える。メジャーにはない「映画の自由」が、クズ映画には存在するのである。その自由さは案外、映画の快楽の本質なのではないか。
あらゆる規制からの自由という意味では、前衛芸術とも似ているかも知れない。だが、Jトラッシュには前衛芸術の分かりにくさは微塵もない。もし分かりにくいとしたら、それはストーリーや描写の稚拙さ故だ。前衛芸術のような高い志の故ではない。Jトラッシュの自由さはエクスプロイテーション(見世物)・ムービーとしての煽情性の結果であり、前衛芸術のように、最初から自由を目的とはしていない。そこがいいところでもある。
WHDジャパンの作品は、今のところ、世間一般的にはほぼ無視されているように思う。だが、2009年だけで3本のオリジナル作品を製作したのは凄いことだ。そして、出来はともかく、どの作品もホラーへの愛を感じられるのが嬉しかった。マニアにはもっと注目されていいと思う。
本作は、狂った女がカップルをマンションの一室に監禁し、延々と痛めつけるストーリーだ。企画・構成・特殊メークを「VERSUS ヴァーサス」(2000)「地獄甲子園」(2002)の仲谷進が務めている。監督・脚本は阿見松ノ介。某監督の変名である。主演は今西洋貴、ひがきえり、篠崎雅美ら。
狭いマンション内での、襲う者と襲われる者との追っかけや格闘がある。高橋伴明監督の「DOOR」(1988)では、マンションの部屋から部屋へと被害者が逃げるのを上から撮るという、セット撮影ならではの場面があるが、本作は予算がなくてセットを組むことが出来なかったのだろう。本当のマンションを借りて撮影しているため、非常に難しい撮影だったと思われる。それでも「DOOR」と同じような上からのカットを無理やりに入れたりしていて、なかなか頑張っている。
本作の最大の功績は、「ギニーピッグ」シリーズなど80年代和製スプラッターのテイストを復活させたことだ。70年代から続くスプラッター映画ブームを受け、80年代になってビデオの普及に伴い、日本でも様々なオリジナル・ビデオのスプラッターが作られたのだが、89年に宮崎勤による幼女連続誘拐殺人事件が起きると、全く無関係のスプラッター・ビデオが殺人事件の一因ように非難され、製作が途絶えてしまった。明らかにホラーへの差別だったが、その後、残酷場面のみを売り物にしたようなオリジナルのスプラッターが再び作られることはほとんどなかった。本作は「アンダルシアの犬」以来の目玉を剃刀で切り裂くシーンを描くことで、和製スプラッター復活を高らかに宣言したのである。
仲谷進の特殊メークによる様々な残虐場面はチープながら異様な迫力があり、クライマックスの目玉切り裂きシーンは確かによく出来ている。そして、ラストになって「サイコ・イコール」というタイトルの意味も分かる仕掛けになっている。質は決して高いとは言えないが、インディペンデント映画ならではの自由さが感じられる点で、Jトラッシュと呼ぶにふさわしいだろう。WHD「ジャパン」のJは、JトラッシュのJでもある。
(小梶勝男)