◆実話に基づいた実録犯罪ドラマ(70点)
ド派手なアクション映画を世に送り出しているリュック・べッソン率いるヨーロッパ・コープ社が、これまでとは違った異色の刑事モノのクライム・サスペンス・アクションを生み出した。
刑事マレク(ロシュディ・ゼム)は麻薬密売組織ジュリアン一味に上司ら同僚を殺害され、この組織に激しい怒りを覚えていた。ある日、麻薬取締局からモロッコからスペインのマラガに持ち込まれた麻薬を運ぶドライバー、“ゴー・ファースト”として潜入することを命じられたマレクは、過酷な訓練を終え、スペイン側の組織の信用を得て潜入捜査官となる。組織に対する復讐を抱いたマレクの囮捜査が開始される。
実話に基づいた実録犯罪ドラマであり、ゴー・ファーストというお仕事もその潜入捜査官も実在するのである。オリヴィエ・ヴァンホーフスタッド監督は、本物らしく魅せるべく警察側と裏社会側の双方を徹底的にリサーチしたとのこと。その結果、リアリズムが徹底されたドラマとして仕上がった。これは監督の力だけでなく、警官としての経験が豊富なジャン=マリー・スヴィラが脚本に参加していることもあってのことだと言える。
序盤で観られる組織の連中の行動を監視カメラが捉えた映像は、報道番組のドキュメンタリーや「警視庁24時」系の番組を彷彿させる。そして、中盤あたりではモロッコのマリファナ栽培を緻密に紹介してくれる。これはアウトロー社会やアンダーグラウンドの世界に興味を抱く方にとっては興味深いシーンであること間違いなし。また、そうでない方でも興味をそそられ、ついつい食い入ってしまうだろう。
他にもマレクが潜入捜査官になるための訓練として狙撃、プールでの水泳、腕立て伏せ、その他ハード過ぎるトレーニングをこなしていくが、この訓練が如何に過酷で厳しいモノなのかが存分に味わえる。このシーンでは指導者のチョイ鬼コーチぶりが印象的であり、訓練内容とともに注目すべきポイントだ。
その後は、マレクの囮捜査を緊迫感を醸し出させてじっくりと描かれる。この任務の危険さがじっくりと丹念に描かれ、その激ヤバさに観る者は驚愕されっぱなしとなるだろう。中でも正義の刑事であるはずのマレクが、悪人になりきって民家を襲って盗みをやらかすシーンにはヒヤヒヤさせられる。
ラストは、本作の眼目でもある大量に麻薬が積み込まれたBMWが猛スピードを発揮して突っ走るカーチェイスが堪能できる。スリリングかつスピーディーに描かれてはいるものの、よくありがちな迫力や派手さは感じられない地味な仕上がりだ。このカーチェイスの前や後に描かれているアクションシーンとして銃撃戦が観られるが、これもごく普通という印象であり、犯人逮捕シーンでもアクション系刑事ドラマならではの格闘アクションを魅せつけたりはしない。とにかくアクションシーンに関しては、リアリティーを追求しすぎたことによって派手さが描かれていないという感じがするが、実話に基づいているからこそアクションはこの程度で相応しいと納得できる。
とにかく本作は、警官の視点から捉えた裏社会、危険な囮捜査の実態を存分に満喫できるのである!!
(佐々木貴之)