ゴー・ファースト 潜入捜査官 - 小梶勝男

◆ドキュメンタリーのような独特の緊迫感。実録ものとしてのリアリティーと娯楽の面白さがうまく両立している(70点)

 「潜入もの」は、潜入者の正体がいつ暴かれるかとハラハラするものだが、この映画には、それだけではない独特の緊迫感がある。

 麻薬密売組織に同僚を殺された警察官が、潜入捜査官としての厳しい訓練を受け、麻薬の運び屋「ゴー・ファースト」として組織に潜入する。ストーリーはシンプルだが、訓練から潜入、組織での仕事、そしてラストまで、描写が細かく丁寧で、非常に説得力がある。

 脚本に現役の警部を加え、警察側と元麻薬の運び屋に徹底的に取材したという。そのため、どの場面も非常にリアルで、それが緊迫感につながっている。手持ちカメラを使い、ドキュメンタリー・タッチの撮り方もしている。だが、それにとどまらないのが本作のいいところだ。冒頭の宝石店での強盗シーンや、ラストの銃撃戦など、派手な見せ場は派手に描き、そのバランスがとてもいい。実録ものとしてのリアルさと、娯楽の面白さがうまく両立している。

 組織の運び屋と同じ車を警察側が用意して、途中で入れ替える場面など、普通の映画なら、「現実にそこまでやるだろうか」と疑問に思うところだが、全体が極めて真実らしいので、「現実は意外にもこうなのか」と驚きを持って納得出来た。「事実」に基づいた映画の強みだ。もちろん、どこまで「事実」なのか調べたわけではないが、「事実」のように思える、というのが大切だ。

 主演の警察官役のロシュディ・ゼム、その上司を演じるオリヴィエ・グルメは、ともにカンヌ映画祭で最優秀男優賞の受賞歴がある実力派。日本で余り知られていないのも、かえって実録ものとしてのリアリティーを高めている。

 独特のカー・アクションも良かった。多くのハリウッド映画のように、派手だがどこか既視感のある決まった撮り方ではなく、地味ではあるが、高速走行するBMWやアウディの迫力を見事に表現している。「トランスポーター3」のように、片輪走行したり、ジャンプしたりしなくとも、200キロ以上のスピードで他を追い抜きつつ走る自動車は、本来はそれだけでスリリングなはずだ。高速走行の臨場感があるからこそ、横転やクラッシュの凄みも出るのである。

 映画出演2本目のカタリーナ・ドニの美貌も楽しめた。なお、「リュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープが贈る」と宣伝されているが、直接にベッソンは関わっていない。むしろ、いつもの「ベッソン映画」とは相当に印象が違う作品になっている。

小梶勝男

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