コントロール - 岡本太陽

JOY DIVISIONのイアン・カーティス伝記映画(85点)

 ジョイ・ディヴィジョン。マンチェスターで結成されたイギリスを代表する4人構成のロックバンド。ボーカルのイアン・カーティスの書く絶望的な歌詞は若者を中心に人気を博した。また彼のダンスの様な独特な歌い方は有名である。アメリカツアーを控えた1980年5月18日、イアンは23歳という若さで突然自殺。彼の自殺の理由は未だ明らかにされていない。その後、残されたジョイ・ディヴィジョンのメンバー3人はニュー・オーダーとして活動を始めた。

 そのジョイ・ディヴィジョンのボーカル、イアン・カーティスの高校生時代から謎の自殺を遂げるまでの数年間を映画化した作品が公開された。タイトルは『CONTROL』といい、この映画はイアンの妻のデボラ・カーティスが書いて1995年に出版された「Touching From a Distance」を基に製作された全編モノクロの作品である。

 この作品の監督はアントン・コービン。彼は数多くのミュージシャンやロックバンドを撮り続けている写真家、そして映像作家。宗教色が少々強い彼の作品は、たとえ彼の名前を知らない人であっても、作品はどこかしらで見た事があるだろう。彼はU2やニルヴァーナ等のミュージックビデオで有名で、2005年に発売になったミュージックビデオ等を集めたDirector’s LabelシリーズのDVDでも彼をフィーチャーしている。そんな多くのミュージシャンに慕われている彼が映画を初監督した。しかもそれがイアン・カーティスの物語。これがまた凄い映画なのである。

 主役のイアン・カーティス役にはサム・ライリーを起用している。今までに数作映画には出演しているが、目立った作品はない。しかしこの『CONTROL』の中ではサム・ライリーはほんとうに素晴らしい。演技がうまいというよりは雰囲気だろうか。限りなくイアンと同化している。今回使われたジョイ・ディヴィジョンの楽曲では全てサム・ライリーの声で録音し直している。また彼の妻役を『ギター弾きの恋』『マイノリティー・リポート』等のサマンサ・モートンが演じる。イアンの忍耐強い妻を見事に演じている。サム・ライリーと並ぶと、彼女の方が俄然演技力は上である。既に公開になった話題作、ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス』の続編『Elizabeth: The Golden Age』にも出演している。その他『CONTROL』にはジョー・アンダーソン、アレクサンドラ・マリア・ララ、等が出演している。

 ストーリー:1970年代、イギリスはマンチェスター、高校生のイアン・カーティスはデヴィッド・ボウイやイギー・ポップの様なミュージシャンになりたいという野心を抱いている。そしてバンドに加入し、成功し始める。デボラとも結婚し、娘ももうける。しかし、夫として、父親としての役目がミュージシャンとしての彼を追い詰め、徐々に家庭の中に息苦しさを感じていく。また癲癇(てんかん)や鬱病を患い、それがイアンの心も体も蝕んでいく…。

 まず、なんといっても始めにいわなければいけないことは音楽面だろう。イアン・カーティスではなく、サム・ライリーの声を使ったこの映画の中のジョイ・ディヴィジョンの楽曲達。「Isolation」「Love Will Tear Us Apart」「She’s Lost Control」「Atmosphere」等、さすが多くのミュージシャンに多大な影響を与え続けている音楽なだけに、サム・ライリーが歌おうと、その素晴らしさは変わらない。サントラが欲しくなってしまう出来である。

 それから写真家として成功しているアントン・コービンの映像は単純に美しいの一言。映画を観終わって気付いたことがあった。それは何かというと、映画の中から切り取った静止画達が芸術的レベルでも高いということだ。映画の中のどの写真を見ても、実際に写真の撮影をしたかの様である。これはやはり写真の世界でも高い評価を得ているアントン・コービンの成せる技であろう。特に、深い悲しみの表情を見せるサム・ライリーを映す場合は肖像写真の様に美しい。『CONTROL』は今年公開された映画の中ではおそらく一番美しい映画だろう。

 わたしは近年公開されたレイ・チャールズの『レイ』やジョニー・キャッシュの『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』等、基本的にはあまり伝記映画は好きではない。その人について多少知っているし、映画を観てもあまり驚きがない。むしろ、自分の想像と違ったりして映画に失望してしまうケースが多いのである。しかしながらこのイアン・カーティスの『CONTROL』は違った。

 いわゆる「偉人の物語」という映画ではないのだ。作品の全体の雰囲気は静かで、繊細。イアン・カーティスについて描く作品だが、キャラクターがものをいう作品というよりは映像、音楽、言葉で見せる映画であろう。それ故、たとえジョイ・ディヴィジョンについて、またはイアン・カーティスについて知識がなくとも理解に苦しむことはなく、イアンの悲しい成功の人生を見守る事ができるのである。そして謎に包まれた死を遂げた人を主人公にしている物語にありがちな、どうして死に至ったかを追求していない点にも共感が出来た。ミュージシャンになりたかった若者が、成功し、そして苦しみの中で生きる悲しい人生を眺めている感覚が新鮮な作品である。もちろん映画が終わった後は、ノックアウトされた様感じはあったのだが、この映画に関しては、わたしは数日後に思い出した時に胸騒ぎのする映画であった。

岡本太陽

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