プライドを捨てることで人間は楽に生きられるものなのか。マジメに働く能力が決定的に欠如しているが、女には妙に大切にされる。ディテールにはまったくリアリティがないにも関わらず、このヒモ男の身勝手さは異彩を放っている。(30点)
プライドを捨てることで人間はここまで楽に生きられるものなのか。女のアパートで一日中ゴロゴロし、食事の用意もすべてさせ稼いだきたカネを巻き上げる上に他の女と浮気までする。か細いシルエットの不健康な肉体、マジメに働く能力が決定的に欠如しているが、女には妙に大切にされる。寄生虫のような唾棄すべき男だが、ここまで来ると逆に立派ですらある。男と女の地に着かない生活、そこで描かれるディテールにはまったくリアリティがないにも関わらず、妙にこのヒモ男の身勝手さだけが異彩を放っている。
会社をリストラされたOLの泉は同棲中のヒロミに言い出せず貯金を取り崩す毎日。ヒロミは病気を理由に働きに出る様子もない。ある日泉はピザ屋を始めるが、ヒロミの怠慢のせいですぐに失敗する。
ラーメン屋でチャーシューを譲ってもらったのがふたりの出会いなのだが、その後の力関係はヒロミのほうが圧倒的に上。泉はヒロミのためならどんなことも厭わないのだが、なぜそこまで泉がヒロミに尽くすのかは不明。ヒロミに何らかの才能があるわけでもなく、人をひきつけるような魅力もない。泉はむしろヒロミを愛しているというよりも、「こんなダメ男に尽くしている私っていじらしい」と自分に酔っているかのようですらある。ゆえに、いくら恋愛に理屈は通じないといっても、ここまでふたりの関係に説得力がないのでは物語に上滑りするだけだ。
やがて手持ちのカネがなくなっていくが、ふたりの間にはあまり切迫感がなく、貧しさに実感が伴っていない。その様子は惨めっぽくなくていいのだが、かといって貧乏生活を楽しんでいる風でもない。時折出てくる記憶喪失の男の役割も中途半端で、コメディとしても作りこみが不足している。脚本家が頭の中だけで作り上げたあらゆる設定が安易で空疎な物語は、ヒロインを演じる井上和香のヘタクソな演技と不思議にマッチしていたことは確かだが。。。
(福本次郎)