◆アクションシーンに全力が注がれている(80点)
かなり面白かったハリウッド製サスペンス映画『セルラー』(04)を香港映画界がリメイクした。ちなみに香港映画がハリウッド作品をリメイクしたのは、本作が初めてとの事だ。監督は、娯楽アクション映画を多数手懸けているベニー・チャン。
ロボット設計士のグレイス(バービー・スー)は、6歳の一人娘ティンティンを学校に送り出した帰り道に謎の一味に車で追突され、そのまま拉致監禁されてしまう。グレイスは一味の隙を狙って粉砕された携帯電話の修復を試み、配線を接触させて何とか発信した。繋がった相手はアボン(ルイス・クー)という気が弱くて冴えない日々を送っている負け犬経理マン。グレイスのSOSをイタズラだと思っていたアボンは、あまりにも真剣に訴えていることから素直に聞き入れ、救出するべく孤軍奮闘することになる。
事件の巻き添えを喰らったアボンが、これをきっかけに負け犬からヒーローへと変貌していく姿が見所の一つである。メガネヅラのいかにも好青年という感じのヒーローとはかけ離れている容姿の彼は、一人息子ギットとの約束すらロクに守れず、会社では暴力団まがいの取立て業務を仕方なくやっているようなダメ男。そんな彼がカーチェイスをやらかしてみたり、電話会社で発砲騒動を引き起こして指名手配されてしまったりと奔走していく中で、徐々に強い男へと成長していく。最終的には犯行グループに堂々と挑戦する勇者となっている。
香港映画ということでお馴染みのアクションシーンには全力が注がれている。ティンティンが犯行グループに拉致されてから開始するカーチェイスは、本作で描かれているアクションシーンの中では最大の見せ場であると同時に最大の売りモノである。クラッシュや横転はもちろん、アボンがハンドルを握る車が缶ジュースを積載したトラックに突っ込んで、辺りが缶ジュースまみれになったりという具合に迫力満点でなおかつ観る者の脳裏に焼きつくような強烈な描写に仕上がっていて、面白さを存分に堪能できる。他にも車が崖から落下、銃撃戦、香港映画らしい格闘シーン、残酷なバイオレンスが観られ、どれをとっても印象深い。
また、サスペンスとしても緊迫感がしっかりと醸成されており、事件が一件落着したかと思うと意外な展開を魅せつけてまだ終わっていないという、一筋縄ではいかないストーリー運びに驚愕させられてしまったりというように観る者を思う存分楽しませてくれる。
オリジナルのストーリーを忠実に踏襲しながらも、主人公アボンを子持ちにしたりと設定を少し変更したことによって、最後には感動が味わえる後味の良い作品へと仕上がったのである。
オリジナル版にも引けを取らない最高傑作だと言いたい。
(佐々木貴之)