◆快作『セルラー』を香港映画界がリメイク(70点)
スマッシュヒットを飛ばしたハリウッド映画『セルラー』(04)を、『プロジェクトBB』のベニー・チャン監督がリメイク。緩急を利かせながらいくつもの山場を連ねていくオリジナル版の脚本には当時感心したものだが、シナリオ学校の教材になりそうなそのストーリーをこちらのリメイク版もほぼ忠実に踏襲。携帯電話という今日的なツールを軸に、緊迫感あふれる物語を紡いでいる。
さえない経理マンのアボン(ルイス・クー)は、留学する息子を見送るために空港に向かう途中、見知らぬ女性グレイス(バービー・スー)からの電話を受ける。「監禁されている。助けて」という彼女の訴えを1度はイタズラ電話かと疑ったアボンだったが、突如受話器から銃声と悲鳴が聞こえてきて……。
アメリカ西海岸だった『セルラー』の舞台をいかにも香港らしいロケーションに置き換え、アクションも大幅にスケールアップした。繁華街でのド派手なカーチェイス、断崖からの転落、国際空港での壮絶な銃撃戦などを展開。物はついでとばかりに、車やら貨物やら空港の設備やらをこれでもかというくらいぶっ壊す。その規模たるや、バカバカしさを突き抜けて、ある種の爽快感さえ覚えるほどだ。
キャラクター設定上では、アボンを子持ちにしたのがオリジナル版(演じたのはクリス・エバンス)との最大の相違点。人生から逃げてばかりだったダメ男が、命がけの人助けに乗りだす行為を通じて、切れかけた息子との絆を結び直していく展開が感動を誘う。
一方、グレイスをロボット設計者に変えた点は、ストーリーにあまり生かされなかったようだ。逆に生物教師という設定だったからこそ生きたオリジナル版(演じたのはキム・ベイシンガー)の某シーンまでが死んでいた。事件の真相に迫るファイ刑事(ニック・チョン)にも、個人的にはオリジナル版のウィリアム・H・メイシーよろしく、ダイビングやスライディングをしながら撃ちまくってほしかったところ。もっともベニー・チャン監督としては、そこまでやるとオマージュではなく猿真似になってしまうと危惧したのだろうか。
(町田敦夫)