ただの恋愛映画にしか見えず、何とも物足りない(50点)
何本か作られているココ・シャネルを描く作品の1本だが、本作はオーソドックスというより平凡で、パンチ不足の伝記映画になった。孤児院で育った少女時代から、お針子になり、将校の愛人に。やがて運命の恋人ボーイ・カペルと激しい恋に落ち、彼の理解と援助でデザイナーとして頭角を現すが、彼女の生涯唯一の恋には悲しい結末が待っていた。
ファッション・ブランドのシャネルが正式にサポートしているという点が本作の唯一の特権性だ。シャネルを語るとき、20世紀初めの女性の美意識を激変させ、他人と対立しても自分の意見を主張して仕事への活力とした点は見逃せないのだが、この映画は彼女のデザイナーとしての才能のひらめきよりも、運命的な恋の方に焦点をあてている。だが、これではただの恋愛映画にしか見えず、何とも物足りない。主役のオドレイ・トトゥはコケティッシュで、中性的な魅力の女性を好演しているが、シャネルの特有の頑固さや強さが足りない。シャネルといえば高級服の代名詞だが、もともとはカジュアルで楽な服作りを目指し、女性を窮屈さから解放した功績があるデザイナー。貧しい生まれだからこそ生まれた発想の原点を知るにはいい。
(渡まち子)