コクリコ坂から - 樺沢 紫苑

『コクリコ坂から』には宮崎駿作品のような熱さはないが、柔らかな「温かさ」がある映画に仕上がっている。(点数 80点)


(C)2011 高橋千鶴・佐山哲郎・ GNDHDDT

おもしろい映画である。
少女の初恋が初々しく描かれているし、
昔しの街並みや風景の映像も美しく、そして懐かしい。

 
『ゲド戦記』に続く、宮崎吾朗監督の二作目。
『ゲド戦記』と比べると、その成長は目覚しいとも言えるが、
一方であまりにも淡々と描かれすぎる作品の「温度感」に
クライマックスにも、あまり感動できなかった。

そういえば、『アリエッティ』の時にも同様の感覚にとらわれた。

『コクリコ坂から』にも、『アリエッティ』にも
ほとばしる「情熱」が感じられないのは残念である。
 
宮崎駿作品と比べるのも酷だが、
年齢的には若いから演出技術はまだまだとしても、
「情熱」においては、若者も熟練者も関係ないだろう。
 
むしろ、若い人の方が、作品から
燃え上がるような「情熱」が感じられることが
多かったりするわけだし。

宮崎駿作品。
大好きな作品も嫌いな作品もあるが、
彼の作品全てから感じられるのは、
「情熱」というか、「情念」である。

宮崎駿のアニメにかける熱い思いが、映像からビシバシ伝わってくる。
「命を削って作品を作っている」くらいの凄い情念が、
我々の心を動かすのだ。

宮崎駿の後、スタジオ・ジブリはどうなるのか?
後継者を育てるというという意味も含めて、
昨年の『アリエッティ』、そしてこの『コクリコ坂から』が
作られているのだろうが、天才宮崎駿のような作品は作ることはできなくても、
その遺伝子として、アニメにかける情熱。

情念のこもった熱い作品作りというものを、私は宮崎駿以外の
ジブリ作品に期待するのだが、これは過剰な期待なのか、
それとも見当違いの期待なのか。

『アリエッティ』から感じられるのは冷たいほどのクールさであり、
『コクリコ坂から』は中途半端な温かさである。

とまあ、厳しい ことを書いてはみたものの、
「ジブリ映画」という期待感を取りのぞけば、
おもしろい映画の一本と言っていいだろう。

東京オリンピックの前年、1963年という設定。
私はまだ生まれてはいないが、妙に「懐かしい」風景は、
素直に楽しめる。

まだまだ、物質的には豊かではない時代。
哲学について熱く語る若者が登場したり、
目玉焼きの朝食が妙においしそうだったり、
輸入ウイスキーに歓喜したり、
日々の生活の中に、「小さな幸福」がしっかりと描かれ
精神的な豊かさが、伝わってくる。

平成に生きる現代の私たちは
物質的には豊かにはなったけども、
精神的に豊かになっているのだろうか? 
と問われているような気がした。

あるいは、東京オリンピックの前年ということで、
日本が右肩上がりの成長に差しかかる時期。

「上を向いて歩こう」というキャッチとともに、
東日本大震災で落ち込んだ日本人に、
あの頃の日本を思い出そう、と語りかけているようでもあり
勇気が湧いてくる。

私は涙が流れるほどの感動はしなかったが、
劇場を出たときに、非常にポジティブな気持ちになり
温かい気持ちになった。

そう考えてみると、
『コクリコ坂から』には宮崎駿作品のような熱さはないが、
柔らかな「温かさ」がある映画に仕上がっているわけで、
それはそれでいいのかな、という気もしてくる

樺沢 紫苑

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