◆主演3人、特にイ・ビョンホンが魅力的な韓流ウエスタン。娯楽作として十分に楽しめるが、ロマンチシズムが希薄である点が惜しい(75点)
1930年代の満州を舞台に、マカロニ・ウエスタンの世界を「韓流ウエスタン」として復活させる。そんな奇抜なアイデアは、ともすればキワモノを生みがちだが、チョン・ウソン、イ・ビョンホン、ソン・ガンホという3人の俳優たちを得て、見事に娯楽作品として結実した。同じように日本でウエスタンをやろうとした三池崇史の「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」の失敗に比べると、成功と言えるだろう。
タイトルを直訳すると、「いい奴、悪い奴、変な奴」。これはセルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンの名作「続・夕陽のガンマン」の原題「the GOOD, the BAD, and the UGLY」(いい奴、悪い奴、嫌な奴)のもじりだ。戦争を背景に、「宝探し」で3人が争い、ラストに「3すくみ」の決闘があるのは本家と同じだが、舞台が満州だから、そこに日本軍や馬賊が絡んでくる。
レオーネ作品は「いい奴」にクリント・イーストウッド、「悪い奴」にリー・ヴァン・クリーフ、「嫌な奴」にイーライ・ウォラックと、3人の役者が素晴らしかった。特にリー・ヴァン・クリーフは、頭の薄い小汚いオヤジがどうしてこんなに、と驚くほどのカッコよさだった。
「甘い人生」「箪笥」のキム・ジウンがメガホンを取った本作も、本家に負けないくらいに主演3人がいい。「いい奴」の賞金稼ぎにチョン・ウソン、「悪い奴」の殺し屋にイ・ビョンホン、「変な奴」のこそ泥にソン・ガンホ。
レオーネ作品と同じく、「悪い奴」イ・ビョンホンが特に素晴らしい。目の下に隈を作った死に神メイクもぴったり似合っている。いちいち決める表情とポーズが様になっていて、ナイフ捌き、銃捌きも鮮やかだ。韓流セクシー・スターのビョンホンはこの作品でも上半身裸になって、鍛え上げた肉体を見せる。特に裸になるのが必要な場面ではない。裸を見せるための裸だ。ビョンホンは「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」でも「G.I.ジョー」でも裸の上半身を見せるが、この作品の裸が一番切れ味鋭い。そして、本作での悪役が最も輝いている。
疾走する馬上でチョン・ウソンがライフルを回転させながら撃つ場面も見ものだ。ソン・ガンホはベテランらしいこなれた演技でお笑い部分を引き受けている。
しかし、この映画には何か欠けるところがある。それは、レオーネのウエスタンにあったロマンチシズムではないだろうか。
レオーネのウエスタンは一方の極からもう一方の極へ、その振り幅の大きさが魅力だった。それは残酷とユーモアであり、極端なアップとロングであり、リアリズム(現実主義、金、今そこにある欲望)とロマンチシズム(理想、プライド、未来への希望)であった。リアリズムとロマンチシズムの対比は、アップとロングの対比と相関関係にある。リアリズムが強調される場面では、欲望にぎらつく顔などのアップが使われ、ロマンチシズムが強調される場面では、荒野の風景のロングが使われる。風景を描くロングの場面はある程度の尺が必要となり、セリフもかぶせにくいので、音楽が使われることになる。そこでエンニオ・モリコーネの音楽が、さらにロマンチシズムをかき立てる。
韓流ウエスタンの本作には、残酷とユーモアはあるが、ロマンチシズムが希薄だ。アップばかりでロングが少ない印象を受けるのはそのためかも知れない。その代わり、冒頭の列車強盗の場面など、手持ちカメラでの撮影で臨場感を出している。ストーリーは荒唐無稽だが、良くも悪くもリアリズムの映画なのだ。もちろん、娯楽作品としては十分に楽しめる。だが、何かが足りないとすれば、それはレオーネのウエスタンにあったロマンチシズムだろう。
(小梶勝男)