◆漫然と日々を過ごす老境に差し掛かった主人公に突然降ってきた恋と復活のチャンス。長髪にジーンズ、バーを渡り歩く旧世代の残骸のような彼のライフスタイルが、砂漠と太陽に彩られた米国中西部の風景にとてもマッチしていた。(50点)
街から街をおんぼろSUVで旅し、酒とタバコを友に場末のステージに立つ男。若き日の栄光はすでになく、わずかなギャラでやる気のないライブをこなしている。そんなドサ回りのカントリー歌手の前に現れたシングルマザー。過去を忘れられない一方で漫然と日々を過ごしている老境に差し掛かった主人公が、突然降ってきた恋と復活のチャンスにもう一度賭けようとする。長髪にジーンズ、バーを渡り歩く旧世代の残骸のような彼のライフスタイルが、砂漠と太陽に彩られた米国中西部の風景にとてもマッチしていた。
かつて一世を風靡したバッドはボウリング場の仮設舞台で日銭を稼ぐほど落ちぶれていたが、取材に来た地元紙の記者・ジーンと親しくなる。そのままふたりは一夜を共にし、翌日バッドはジーンの家を訪ね、ひとり息子のバディの心をつかむ。
バッドの移動は500キロから1000キロに及ぶ。その間、ひたすら古びた車のステアリングを握っている。ジーンともすぐには会えない長距離恋愛。ところが空間的距離を感じさせないくらいふたりは親密だ。それはヒマな歌手とスケジュールが調整できる記者という関係だからこそ成り立つ。彼女に会いに行く途中、事故に遭ったバッドはジーンの家で療養するが、4度も離婚した女にだらしないバッドでもジーンは受け入れる。やはりわざわざ遠くから会いに来てくれる男は、寂しさを抱えた女には大切なものに思えてくるのだろう。このあたり感情的に盛り上げるのではなく、「相手のために時間を割く」行為で愛の深さを表現するシンプルさが静かな余韻を残す。
しかし、ウイスキーを飲んだスキにバディを見失い、ジーンの信頼を失ったバッドはまたひとりぼっちになる。自分の弱さや甘さをすべてアルコールのせいにする大人になりきれないバッドは、ジーンからの三行半でやっと目覚め、再び真摯に音楽に向き合うようになる。美しい夕焼けはバッドの再生を象徴しているが、そこに至るまでの過程がむしろ淡々と描かれ、そのトーンが人生をかみしめるような味わいをもたらしていた。
(福本次郎)