騙す方も騙す方なら、騙される方も騙される方(70点)
詐欺というと華麗なテクニックが常だが、この映画の主人公のそれはまぬけすぎて逆に魅力に見えるから不思議だ。恋愛詐欺師・クヒオ大佐は実在の人物で、女性たちから約1億円を巻き上げたというから驚きである。名前こそクヒオだが正真正銘の日本人だ。90年代初頭、米軍特殊部隊のパイロットを名乗るクヒオは、デタラメな経歴で女性を騙して金を巻き上げていた。どう見ても怪しい彼に、弁当屋の主人のしのぶや自然博物館の学芸員の春は騙され、正体を見破ったホステスの未知子でさえも彼に惹かれていく。
実話に基づくこの話、戦後すぐの混乱期ならまだしも、なんと湾岸戦争が始まった90年代のお話。騙す方も騙す方なら、騙される方も騙される方とあきれてしまう。だが今も世間を騒がせるオレオレ詐欺だって、なぜこんな拙い手口に引っかかるのかと不思議なのに被害があとを絶たない。元来、性悪説の私でも、人間とは信じやすい“良き生き物”という気がしてきた。嘘がバレたクヒオが言う「騙したんじゃない。彼女たちが望んだんだ」というセリフ、案外当たっているのかもしれない。バレバレの嘘を平気でつく幼稚な発想や、夢と現実の区別がつかない体験談など個性あふれる見所に対し、クヒオの背景や心理描写が浅いのは残念だが、付け鼻とおかしな日本語で熱演する境雅人の曖昧な笑顔が抜群にハマッていて、大いに楽しめた。もっとも根底にあるのは、日本人の根深い欧米コンプレックスかと思うと苦笑は禁じえない。
(渡まち子)