自らの妄想を信じ、己の言葉に酔い、なりたかった理想の姿になりきる。結婚をエサに数々の女からカネを巻き上げる瞬間に、この詐欺師の人生に真実の灯がともる。どんな嘘も相手が信じてくれている間だけは、本当になるのだ。(40点)
自らの妄想を信じ、己の言葉に酔い、なりたかった理想の姿になりきる。結婚をエサに数々の女からカネを巻き上げる瞬間に、この詐欺師の人生に真実の灯がともる。彼にとって、どんな嘘も相手の女が信じてくれている間だけは本当になり、彼の存在を肯定する。小さな嘘より大きなホラ、具体的な固有名詞とディテール、そして何より自分自身が作り話を信じるのが詐欺師にとって一番大切なことをこの作品は教えてくれる。だが、映画は主人公の内面に深く踏み込もうとはせず、行為だけからは彼の人となりがイマイチ見えてこない。
こども科学館の指導員・春に声をかけたクヒオ大佐は、宿に戻るとしのぶと結婚式の相談をする。しのぶはクヒオが米軍パイロットとすっかり信じ込んでいて相当なカネを貢いでいる。クヒオはその後も銀座のホステス・未知子にも接近し、カネを引き出す算段を練る。
あまりにも安っぽいきざなセリフを全く照れもなく口にするクヒオ。男に免疫のないしのぶや春は手玉に取られるが、未知子だけは逆にクヒオの正体を見破り逆にカネをだまし取ろうとする。このあたり夜の銀座でのし上がってきた海千山千の未知子のほうが一枚上手で、カモにするはずがカモにされそうになるシーンに笑える。さらにしのぶの弟にもカネを脅し取られるなど、クヒオはかなり脇が甘い。そのうろたえぶりが彼の小心さを物語り、根っからの悪人ではなさそうで憎めない。
やがてしのぶに嘘がばれ、クヒオは問い詰められて身の上話を始めるが、それも当然即席で考えたフィクション。悲惨な少年時代を忘れるために別の記憶を捏造し、誰にも疑われなかったことから彼は詐欺師になったのだろう。しかし、日本人である彼がいかにして米軍パイロットを名乗るようになったかは描かれず、またニセの経歴にリアリティを与えるような細部も省略されている。何より、クヒオの素顔を中途半端にしか明かさないので、彼が求めていたもの、それはカネなのか愛なのかもっと別のところの達成感なのかが最後まで分からず、結局彼にも被害者のたちにも共感できなかった。
(福本次郎)