クヒオ大佐 - 小梶勝男

◆日本人なのにアメリカ人と名乗って女性を騙した実在の結婚詐欺師を、堺雅人が付け鼻と片言の日本語で演じる。岡本喜八作品にも通じる映画らしい映画(90点)

 本作は’二部構成’になっている。第一部は「血と砂と金」。岡本喜八監督の「血と砂」から取ったタイトルであることは明らかだ。第一部はごく短く、第二部の「クヒオ大佐」が本編となる。

 吉田大八監督は、岡本喜八を意識して本作を撮ったのだろう。詐欺の話で、ラブストーリーであるにもかかわらず、ラストに近づくと、怒濤のように「活劇」となっていく。その感覚が、岡本作品と通じるところがあるのだ。今年見た日本映画の中では抜群にいい。実に映画らしい映画だった。

 主人公の「クヒオ大佐」は結婚詐欺師だ。正真正銘の日本人のくせに、アメリカ人で米軍特殊部隊のジェットパイロットと名乗り、父親はカメハメハ大王の末裔、母親はエリザベス女王の妹の夫の従姉妹とウソを並べ立て、次々と女性を騙す。そんなムチャな、と思うが、事実は映画より奇なり。クヒオ大佐は実在の人物なのである。映画と同様の嘘の経歴で実際に女性を騙し、金を引き出している。女性たちはクヒオをアメリカ人だと信じ切っていたという。

 この奇妙で嘘くさい人物をどうやって演じるのか。主演の堺雅人は、何と付け鼻に片言の日本語で、嘘くさいキャラクターを嘘くさいまま、見事に演じきってしまう。

 それにしてもここ数年、堺が出演する映画には殆ど外れがない。日本の俳優の中で今、最も輝いている一人だろう。本作も堺でなければ成立しなかったと思う。嘘くさいのに純粋で、ロマンチック。そんな男独特の、ニセの宝石の如き怪しい輝きを放ち、最初は可笑しい付け鼻が、だんだん気にならなくなってくる。

 満島ひかりも最近輝いている俳優の一人だ。彼女は凄い。本作では、知性があって、最初はクヒオを疑いながらも、次第に惹かれていく博物館の学芸員を演じているが、女性の強さも弱さも表現して、本当に巧いと思う。

 堺、満島の強力な二人に加え、松雪泰子や中村優子ら、俳優たちがみんな良かった。そして、何と言っても吉田監督の演出だ。

 ドラマを語る呼吸がとてもいい。軽妙なテンポでコメディーとしても笑えるし、ロマンチックなラブストーリーでもある。クライマックスへ向かうにつれ、作品はアクションの色を濃くしていく。クヒオと女性たちが揉み合い、走り、最後は米軍のヘリまで登場。躍動する映像にワクワクさせられる。

 クヒオの過去が明らかになる「泣ける場面」は、凡百の監督なら存分に泣かせるため、じっくりと描くところだろう。そこをスピーディーに、一気に描くセンスの良さ。米軍ヘリからプールサイド、そしてパトカーの車内と続くラストのシークエンスの圧倒的な面白さ。吉田監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」でも非凡な才能を見せたが、本作はそれを凌ぐ出来栄えだ。

 クヒオは受け入れがたい現実を捨て去り、空っぽの存在となって、代わりにロマンチックな夢を詰め込んだ。その夢が「アメリカ人になる」ことなのが切ない。戦後の日本人は多かれ少なかれ、クヒオのように「日本人」を否定し、「アメリカ人」になろうとしただろうし、今もそんな部分がある。クヒオの付け鼻は滑稽だが、髪を金髪に染めた日本人は滑稽でないのだろうか。クヒオ大佐とは、我々のことでもある。

小梶勝男

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