クヌート - 福本次郎

生活と安全が保障された動物園と、食糧の乏しい凍てついた大地、そして餌には困らないけれどサバイバル術を教えてくれる親がいない森という、環境のまったく違う世界の3組のクマを並列することで、自然と人間の距離感を問う。(50点)

クヌート

© DOKfilmFernsehproduktion © Zoo Berlin

 哺乳類の赤ちゃんはたいてい愛らしい外見をしているが、真っ白な毛に覆われたぬいぐるみのようなホッキョクグマは特にその無邪気な顔と不器用なしぐさで保護本能をくすぐる。映画は、生まれてすぐに母クマが育児放棄をし、飼育係の手によって育てられた一頭のホッキョクグマの成長を軸に、北極の氷雪の上でひたすら餌を求めて海を目指すホッキョクグマ一家と、母を失ったベラルーシのヒグマ兄弟のエピソードを交える。檻の中の見世物ながら生活と安全が保障された動物園と、食糧の乏しい凍てついた大地、そして餌には困らないけれどサバイバル術を教え外敵から守ってくれる親がいない森という、環境のまったく違う世界の 3組を並列することで、自然と人間の距離感を問う。

 ベルリン動物園で生まれたホッキョクグマの新生児は生後すぐに母熊に見捨てられ、トーマスという飼育係が保護する。クヌートと名づけられたその子熊はトーマスが配合した人工の母乳を飲み、24時間付きっ切りで世話をするトーマスに本当の母のように懐いていく。

 おそらく小学生くらいの子供を対象に作られたのだろう。生きていく上での障害よりも、トーマスのクヌートに対する「子育て奮闘気」を中心に、野生のホッキョクグマの母子愛、ヒグマ兄弟の成長と、暗い話題は避けている。ホッキョクグマの子が1頭死んでもあっさりとナレーションで済まし、悲しみを誘うような演出は一切しない。また、声高にエコを叫ばず、映像とナレーションで動物の素晴らしさを訴える手法は心地よい。

 授乳された後、クヌートはトーマスの膝の上で笹鳴きするが、まるで母親の胸に抱かれて安心しきっているその姿は、命の尊さに動物も人間も野生も自然も関係ないことを饒舌に物語っている。途中、クヌートを安楽死させるべきという動物愛護団体からの抗議があるが、そもそも動物園など不自然な場所。クヌートを生かすことでかえって彼らの主張も説得力を持つと思うのだが。。。

福本次郎

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