キャピタリズム~マネーは踊る~ - 町田敦夫

◆マイケル・ムーアがウォール街にアポなし突撃!(70点)

 『ボウリング・フォー・コロンバイン』では銃規制を、『華氏911』ではブッシュ政治を、『シッコ』では医療制度を俎上に載せ、米国の抱える諸問題や矛盾点に鋭いメスを入れてきたマイケル・ムーア。その彼が新たな題材として選んだのは、「冷戦の勝者」たる資本主義だ。私たちは普段、資本主義と民主主義を同じもの、あるいは不可分のものととらえがち。でも、それは大きな間違いだよと、ムーアは強く訴える。

 ムーアが少年時代を過ごした1950年代、米国の庶民はそこそこ満ち足りた暮らしができていた。ところがレーガン政権以降の金持ち優遇策で貧富の差が拡大。末端の労働者は低賃金とリストラに悩まされている。一方では規制緩和の進行によって、様々な弊害も噴出した。従業員に生命保険をかけてがっぽり儲ける企業あり(これは日本にもありますね)、民営化された少年院が収監者を増やすよう判事に働きかけた事例あり(日本の郵便会社もそのうち非道なことをしだすんじゃないのか?)。資本主義のこの暴走ぶり、いったいどうなのよ?

 ……と、そんな問題意識からムーアが取材と撮影を始めた数ヵ月後、奇しくもサブプライムローンの焦げつきを発端とする金融危機が発生。おかげで幸か不幸か、本作に思わぬ幅と深みが加わることとなった。ローンの払えなくなった庶民がマイホームを追い立てられる一方、金融危機の元凶となったウォール街はまんまと巨額の公的資金を獲得。ホワイトハウスや連邦議会をも意のままに操るウォール街のやり口には、日本で暮らす我々としても怒りと恐怖を覚えずにはいられない。

 それにしてもマイケル・ムーアは、どんどん映画作りがうまくなっていると思う。あるいは観客を味方にする術に長けてきたと言うべきか。『ボウリング・フォー・コロンバイン』や『華氏911』では、賛否両論ある題材を取りあげたにもかかわらず、独善的な主張や「アポなし突撃取材」という攻撃的な手法が目立ち、主旨には賛同しつつも反感を覚える部分が多かった。ところが『シッコ』や本作では、弱者なら誰もが共感できる題材を取りあげ、しかも自ら「突撃」するよりも、前線の背後でやんわりと「多数派工作」をするような語り口が目立っている。豊富な資料映像や的確なデータを駆使したり、ユーモラスなCGやウィットの効いたナレーションを盛りこんだりするのは元来ムーアの得意とするところだから、そんな姿勢の変化があれば作品の説得力が増さないはずがない。

 ムーアが使用した映像の中には、貧困の撲滅や社会福祉の充実を訴えるルーズベルト元大統領の談話もあった。しかし70年が過ぎた今、彼が心を痛めた米国の諸問題はほとんど温存されたままだ。おっと、他人事ではないかもしれない。日本でも小泉政権以来の規制緩和で非正規雇用の労働者が急増。先の厚労省の調査によれば、日本は先進国屈指の「貧乏人が多い国」に転落したという。「日本もアメリカの真似をすると大変なことになるよ!」という本作の宣伝コピーは、果たしてこの国の為政者たちの耳に届いているだろうか。

町田敦夫

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