キャピタリズム~マネーは踊る~ - 福本次郎

◆規制緩和が生んだ自由主義経済の現実、富裕層はますます富み、中間層は没落する。マルクスが生きていたころの西欧に逆戻りしたような21世紀の米国を舞台に、マイケル・ムーアは「労働者よ権利に目覚め立ち上がれ」と鼓舞する。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 規制緩和が生んだ自由主義経済の現実、富める者はますます富み、中間層は没落し、貧困層は現状から抜け出せない。そこは貪欲が勤勉を食い物にする世界。ウォール街が生んだ金融派生商品という名の詐欺的な投資に手を出して失敗し次々と家を奪われる人々と対照的に、莫大な所得を得るエグゼクティブたち。まさしくマルクスが生きていたころの西欧に逆戻りしたような21世紀の米国を舞台に、マイケル・ムーアは「労働者よ権利に目覚め立ち上がれ」と鼓舞する。ソ連の崩壊と中国の軌道修正で社会主義は歴史的に敗北したが、それでも腐りきった資本主義よりはまだましだ、と。

 保安官立会いの下、強制執行で立ち退きを迫られる家族はサブプライムローンの犠牲者。一方でそんな家を安く買いたたき、転売で儲けるハゲタカのようなビジネスマンもいる。企業は業績を上げるためにリストラを繰り返し、職を失った人々は貧困層に転落していく。

 第二次大戦後、欧州の没落を背景に空前の繁栄を謳歌した米国は、誰もが中産階級になり消費生活を楽しめた。しかし、その優位は20世紀末に崩れ、生き残るために過度な競争原理を持ち込んだのが米国が腐ってしまった原因とムーアは分析する。「マネーがすべて」の考えが優秀な若者をひきつけ理系の秀才が今や科学の研究ではなくウォール街に職を求めるが、デリバティブの仕組みを金融マンが誰一人として実は理解していなかった皮肉。技術の研究や製造業をおろそかにする国の将来は暗いと断言する。

 この映画に登場するメタボな人々が貧困層を象徴する。安価なファーストフードの過剰摂取が原因なのは明らかだ。逆に金持ちほど贅肉とは縁遠い。そこが太った資本家と栄養失調気味の労働者という19世紀的貧困とは正反対で、いまや衣食住が足りてもより豊かな生活ができないのは貧困なのだ。そういう意味ではいくら「インターナショナル」を高歌放吟しても今の米国では革命は絶対に起こらない。問題は、成功するチャンスが与えられず努力が結果に結び付かない世の中になったこと。行き過ぎた資本主義は民主主義の危機と警鐘を鳴らすのが、ムーアの本意なのだ。テーマに対して傍観者ではなく当事者として切り込む手法は今回も健在で、突撃取材で得た人々の生の声はどんなフィクションよりも説得力があった。

福本次郎

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