◆アーティストたちの素晴らしさを教えてくれる良作(75点)
1950年代から70年代にかけて人気を誇ったブルース音楽のレコード会社“チェス・レコード”の栄枯盛衰と、創設者及び所属アーティストたちの成功や葛藤を描いた音楽系人間ドラマ。
シカゴの黒人街でクラブを経営している野心的なポーランド移民レナード・チェス(エイドリアン・ブロディ)は、天才的ギタリストのマディ・ウォーターズ(ジェフリー・フライト)とハーモニカ奏者のリトル・ウォルター(コロンバス・ショート)によるブルース・コンボに出会い、その才能に魅了され、音楽ビジネスのブームに乗るべくマディをレコーディングに誘ってチェス・レコードという音楽会社を設立する。やがて、ウォーターズのアルバムはR&Bチャートを上昇し、大ヒットを記録する。反人種差別主義者のチェスは、所属アーティストを家族同様に扱い、曲がヒットすると褒美としてキャデラックを買い与えたりしていた。その後、チェス・レコードにはロックの生みの親となるチャック・ベリー(モス・デフ)やソウルミュージックを幅広い層に広めたエタ・ジェイムズ(ビヨンセ・ノウルズ)ら伝説的なアーティストを輩出し、彼らは崇敬の存在となっていくが、時代は次第に変化していく……。
ヒップホップやR&Bといったブラックミュージックのルーツを探った作品はいくつか存在するが、本作は「R&Bがいかにして世に広く浸透したのか?」、「ロックミュージックはどうのようにして生まれたのか?」といった大衆音楽の歴史が緻密に描かれていてかなりわかり易い。また、物語の時代背景である40年代から60年代は人種差別が酷かった。この問題を音楽がいかにして変えたのかということも描かれており、こちらも大変興味深いポイントなのである。
登場人物である伝説的なアーティストを演じるのは、ジェフリー・フライト、コロンバス・ショート、モス・デフ、セドリック・ジ・エンターテイナー、そしてビヨンセ・ノウルズといった芸達者な黒人アクターが顔を揃えている。彼らの演奏及び歌唱シーンもふんだんに取り入れられており、これが観る者を良い気分にさせてくれる。ここで驚くべきことは、彼らの歌声が吹き替えではなく、自身の声でしっかりと歌い上げているということだ。中でもビヨンセが歌うエタ・ジェイムズの「At Last」は必見・必聴の価値は大だと断言できる。
所属アーティストたちの成功秘話も良いが、酒やドラッグに溺れたり、白人警官とのトラブル、未成年女子に手を出して獄中送り、喧嘩で重症を負って死んでしまったりということが原因で仲間同士に亀裂が生じてしまったりといったマイナス面も印象深い。また、チェスも「音楽をネタに黒人たちを搾取している」ということで黒人たちに襲撃される。
アメリカのポップミュージックの歴史の一部分、人種問題とその撤廃、アーティストたちの素晴らしさを教えてくれる良作だと言いたい。
(佐々木貴之)