キッチン ~3人のレシピ~ - 山口拓朗

◆感情面でリアリティが感じられない(55点)

 天真爛漫なモレ(シン・ミナ)は、幼少期から兄のように慕ってきたサンイン(キム・テウ)と結婚生活を送っていた。ある日モレは、開催時間外に忍び込んだ画廊で偶然出会った青年ドゥレ(チュ・ジフン)と、もののはずみで関係を持ってしまう。一方、会社を辞めてフレンチ・レストランを開こうとしていたサンインが、料理の師匠として連れて来た若き天才シェフが、なんとドゥレであった。しかもドゥレは、サンイン&モレ夫婦の家に居候することになり……。

 不倫が絡んだ三角関係に加え、そんな3人が共同生活を始めるとくれば、血や骨や肉がブンブン飛び交うこと間違いなしの修羅場シチュエーションだ。ところが新鋭の女流監督は、この三角関係の駆け引きをシリアスな筆致で描こうとはせず、彼らのスタイリッシュな生活ぶりを活写することに力を注ぐ。

 見どころは、3人の「嫉妬」や「憎悪」や「葛藤」……ではなく、モレの素朴でキュートなファッションや、光と緑にあふれる北欧的なセンスのインテリアや、食器や盛りつけも美しい手作り料理の数々……などである。純愛をベースにした濃厚な韓流映画とは一線を画し、洒落たビジュアルと軽めの人物描写で独自性を打ち出している。

 しかしながら、ふわふわと気持ちを移ろわせるモレにも、小生意気で傲慢なドゥレにも、妻やドゥレに甘すぎるサンインにも、どうにも共感しづらい。よしんばこれが、多様化する今どきの恋愛観を投影したものだとしても、感情面でリアリティが感じられないのは、やはりマイナス点だろう。

 バカがつくほど純真無垢なモレのキャラクターを担保に、感覚的な恋愛ドラマを紡ごうとした女流監督の気概は買いたいが、荒唐無稽な感情描写が邪魔をして、肝心のドラマは、最後の最後まで「ままごと気分」が抜けきらない。

 もちろん、笑顔がかわいいシン・ミナやイケメンのチュ・ジフンらの魅力を引き出すプロモーション映画という位置づけであれば、ことさら目くじらを立てる必要もないのだろうが。

山口拓朗

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