キック・アス ジャスティス・フォーエバー - 青森 学

すべては善と悪のせめぎ合い(点数 86点)


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自衛する権利と警察権を公権力に委譲する義務。
言い換えれば、保守とリベラルの葛藤があり続ける限りダイナミズムが生まれ、アメリカは若さを喪わない。
この作品も二つの思想の間で揺れ動くが、アメコミヒーロー物への忠誠が如実に窺える本作ではキック・アスの活躍に共感して各地で湧き上がるヒーロー熱を肯定的に描いている。

リベラルの良心を代弁するキック・アスの父親、ヒット・ガールの養父が登場するが、それは悪の力の前にねじ伏せられる。
その圧力に屈せずキック・アスは立ち上がるのだが、それはリベラルの思想を包含しつつ正義を行うというのがこの作品の主張である。
それについてはヒット・ガールが後半でキック・アスに向けて放つ科白がそのことを物語っている。これは現在のアメリカの所信表明でもある。

ヒーロー物のコメディであるからアメリカのヒーロー神話を揶揄する話と思いきや数々のヒーロー物へのオマージュとリスペクトが捧げられる正統の流れを汲む至って真面目なヒーロー映画なのである。
コメディで粉飾されているが、ストーリーの核はシリアス、血で血を洗う憎しみの連鎖である。
炸裂するバイオレンスに R15指定というのも頷ける。

4文字言葉や人種差別用語が機関銃の如く登場人物の口から打ち出されるのだが、あまりにも頻繁に口にされるとその効果は薄れてしまう。
50年代に活躍したスタンダップコメディアンのレニー・ブルースの話芸を重ねて見てしまうのだが、口汚く罵るヒット・ガールの口上はむしろ痛快ですらある。
これもR15指定になった理由のひとつかと思われるのだが、客層を狭めてまでも映画のドライブ感を優先した製作陣に賞賛の拍手を贈りたい。
この映画は子供が主人公の大人の映画だからである。

頻繁に口にされると差別用語による侮蔑の意味は希釈され強い意志となって表象される。
でもそれは特殊な場合だけに効果が現れるのでみだりに使わないほうが賢明なのは言うまでもない。

そんな卑語が飛び交うなか、ジム・キャリー演じるスターズ・アンド・ストライプス大佐(the stars and stripesは星条旗の意味)はその名前から推察される通り“アメリカのナショナリズム”を象徴するキャラクターだ。
いわば愛国心の化身なのである、彼は少年達のスラングをたしなめる「保守派の良心」を体現するご当地ヒーローだが、彼の掲げる正義もまたキック・アスの父親と同じく夢と潰える。
前作のビッグ・ダディも同様にこのシリーズでは父性の属性を帯びたキャラクターが少年達の未来のために犠牲になる遺志のバトンをつなぐお話でもある。
そういった意味でご当地ヒーローが結成してチームに付けられた「ジャスティス・フォーエバー」という名前は象徴的な名前であると云えるだろう。
キック・アスのように倒されても何度も起き上がり、そしてそのスピリットは多くの仲間を呼び受け継がれていく。
まさに正義は永遠なのだ。
キック・アスもチンピラから一方的に袋叩きにはなっていない。
7割殴られても3割くらいはやり返すようになっている。
これはアヒルが鷹になろうとした少年のビルドゥングス・ロマンなのだ。

青森 学

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