◆セックスを伴う1対1のサービスを提供するエスコート嬢にとって、自分の判断・行動はすべて収入という結果に結び付く真剣勝負。映画は、「売春婦」という非合法な職業でありながら、プロとして強烈な向上心をもつ彼女の数日を追う。(50点)
顧客の要望を満たすだけでなく、何を欲しているかを素早く読み取り、期待に応える。セックスを伴う1対1のサービスを提供するエスコート嬢にとって、自分の判断・行動はすべて評価に結び付く真剣勝負、それは収入という結果に表れる。シビアな世界でトップクラスの売り上げを誇るヒロインの日常は、刺激的であると同時に魅力的でもあるが、カネに溺れるような雰囲気とはほど遠い。冷静に自己を見つめ、商品価値を高めるための投資や努力も怠らない。映画は、「売春婦」というある種後ろめたい職業でありながら、プロとして強烈な向上心をもつ彼女の数日を追う。
チェルシーは顧客とのやり取りを記録に残し、ネットを使った事業拡大も狙っている。同棲中の恋人・クリスもパーソナルトレーナーから起業しようと営業の日々。ある日、些細なことでチェルシーはクリスと喧嘩をしてしまう。
舞台は2008年のNY、リーマンショックで景気が後退している。客の金融関係者は年収が10分の1になったと愚痴をこぼすが、彼女は相槌をうち励ましてやる。客にとって彼女とのデートは単に会話を楽しみ性欲を発散させる以上に、癒しとリフレッシュの時間でもある。札束を差し出す客たちには、彼女はそれだけの値打があるのだ。一方、他人に必要とされる度合いこそがチェルシーの生きがいのバロメーター。プライベートジェットの乗る合法的なビジネスマンよりも、非合法な売春婦のほうが人生に対して真摯に向き合っているという皮肉が効いている。
やがて、「人格学」という観点から相性がばっちりの客に週末旅行に誘われたチェルシーは、クリスの反対を押し切ってアパートを出るが、客はドタキャン。結局、一時の代用品でしかないことを悟ったチェルシーはまた普段の仕事に戻る。不確実な未来に希望を持つより、目の前の現実に対峙する、先行き不透明な今の時代、そんなチェルシーの生き方がかえって堅実に思えてくる。
(福本次郎)