◆ヒロインは、セックスだけでなく恋人としての役割をもこなしていることから、充実した癒しの時間を売っているとも言える(60点)
大都会NYで暮らす高級エスコート嬢の日々を、ドキュメンタリータッチで綴る異色作だ。スタイリッシュな映像で、ヒロインの繊細な感情を浮き彫りにしていく。2008年のNY。22歳のチェルシーは、エリートを相手に本物の恋人と過ごすような時間を提供して大金を稼いでいる。常に自分を磨きビジネスもコントロールするチェルシーは、自分の仕事を理解する恋人のクリスとの関係も良好だ。だがある時、心惹かれる男性客が現れて特別な感情を持ってしまう…。
高級エスコート、いわゆるエリート専門のコールガールとは、なるほど大都会でしか成り立たない職業だ。ヒロインは、セックスだけでなく恋人としての役割をもこなしていることから、充実した癒しの時間を売っているとも言える。コールガールという職業は後ろに犯罪組織がいて搾取するイメージだが、彼女はネットを使ってセルフコントロールしている。この世界最古の職業も、時代に即して変化しているということか。ジムやエステで身体を美しく整え、高級な服や下着で身を飾るなど、自分への投資を惜しまないチェルシーは、裕福な暮らしはしているが、仕事に真剣に取り組み、浮ついたところがまったくない。だがこの仕事の一番の特徴は、他人からいかに必要とされるかということ。そのため、チェルシーが頼るのは、占いにも似た人格学という不確実なものというのが面白い。検索エンジンでのヒットや、ネット上での誹謗中傷、リーマンショック後の不景気を愚痴る顧客など、時代の空気を巧みにすくい取っている。すさまじい不況を経験した都会では、コールガールという非合法な職業のヒロインも、プライベート・ジェットに乗るエリートも、等しく確かな未来などなく、目の前の現実を生きるしかないとするスタンスがクールだ。ソダーバーグはエンタテインメントと作家性の間を行き来しているが、本作はいわば「セックスと嘘とビデオテープ」の時代に回帰した作品。実験映画のような作風だが、デジタルのシネマカメラ・RED ONEで撮られた超高解像度の映像と、現役ポルノ女優のサーシャ・グレイを一般映画で起用するという賭けが当たり、アーティスティックな作品になった。
(渡まち子)