カールじいさんの空飛ぶ家 - 町田敦夫

◆孤独な老人が亡き妻との約束を果たすために冒険の旅へ(70点)

 カンヌ映画祭のオープニングや、東京国際映画祭のクロージングを飾ったディズニー/ピクサー10作目の長編アニメ。アニメの主人公らしからぬ無骨な顔をした老人の冒険を、カラフルで生き生きとしたCGアニメを使って描いている。

 無口な少年と冒険好きな少女が出会い、ともに成長し、老いていく顛末を描いた冒頭の“つかみ”がまずは素晴らしい。セリフなしのモンタージュながら、2人の堅い絆や子どもができない体だと知ったときの落胆、先立つ者の辛さや残された者の悲哀がジンワリと画面から伝わってくる。涙もろい方なら、この時点ですでに泣くだろう。

 だが物語が動きだすのはそこからだ。最愛の妻を失い、想い出の詰まった家まで奪われそうになったカール老人は、何万個もの風船を屋根に付け、「いつか行こう」と妻と約束していた伝説の滝へと飛び立つ。風船で家が飛ぶわけないなんて思っちゃいけない。手練れのアニメーターの手にかかれば、すべての不可能は可能になるのである。なんたってアニメキャラの顔に無精髭まで生えちゃうんですから。

 滝の見える場所まではあっさり到達するカールだが、浮力を失いかけた家を崖の上まで引きずっていくのが一苦労。幻の巨大鳥や、その鳥の捕獲に執念を燃やす老探検家が絡み、じいさんの冒険は思いがけずスペクタクルなものになっていく。老探検家の手下となって飛行機まで操縦するくせに、誰かがボールを投げると追いかけずにはいられない犬たちが何ともケッサク! カールと老探検家がボキボキ関節を鳴らしながら繰り広げるバトルは、映画史上最も壮絶にして抱腹絶倒だと言っていい。

 そんなカールの冒険をより意義深いものにしているのは、ポーチに紛れこんでいた少年ラッセルの存在だ。空の上や秘境で放り出すわけにもいかず、カールはやむなくラッセルの面倒をみる。そして注意散漫で騒々しいその少年に、次第に愛しさを覚えていく。

 作り手ははっきりとは語っていないが、中年以上の観客の目から見れば、カールの冒険は明らかに死出の旅だ。妻の想い出との心中行と言い換えてもいいだろう。ところが守るべきものを得た老人は、ラッセルを危機から救うために、妻と使った家具を捨て、妻と暮らした家を捨て、代わりに新たな家を、家族を、生き甲斐を手に入れる。人生、想い出がないのも寂しいけれど、想い出にとらわれるのもつまらない。大事な人を亡くした人に、穏やかな励ましと、明日への希望を与えてくれる、本作はそんな良作だ。

町田敦夫

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