カルテット! 人生のオペラハウス - 樺沢 紫苑

人生を楽しむには「歳」は関係ない(点数 90点)


(C)Headline Pictures (Quartet) Limited and the British Broadcasting Corporation 2012

最近「老い」をテーマにして映画が多い気がします。

アーノルド・シュワルツェネガー主演の『ラストスタンド』がそうしたし、
今日紹介する『カルテット』もそうです。

いや、50歳に近付いて「老い」を意識するようになった私が、
無意識にそうした映画を選択的に見ているだけ
なのかもしれませんが、「老い」は誰にとっても避けられない、
普遍的なテーマの一つといえるでしょう。

この映画を「見たいな」と思ったのは、
予告編が良かったこともありますが、
何よりダスティン・ホフマンの初監督作品である、
ということです。

ダスティン・ホフマン、75歳。『卒業』(1967年)の
初々しいホフマンの姿が脳裏から離れませんが、
いつのまにかこんなに高齢になっていたのですね。

俳優から監督に転身して成功した事例としては、
クリント・イーストウッドがありますが、
本作を見るとダスティン・ホフマンの今後の監督としての
成功を十分に期待させる作品に仕上がっていました。

引退した音楽家たちが寄り添うように暮らす
老人ホーム「ビーチャム・ハウス」。

しかしその経営は厳しく、近く開かれるコンサートが
成功しなければハウス閉鎖という危機を迎えます。

オペラ界の名優として知られたレジー、シシー、ウィルフの三人、
そこにかってのカルテット(四重奏)仲間であった
プリマドンナのレジーが入居してきます。

人々は「伝説のカルテット」の復活を期待しますが、
かって夫婦であったジーンとレジーとの間には、深い確執が・・・。

伝説のカルテットは復活するのか? 
そして、ハウスは危機を脱するのか?
そして、二人の関係は?

ヴェルディやバッハなどの名曲にのせて描かれる、
心あたたまる人生賛歌。

かつてはオペラ界を席巻した大女優のジーンは、
老いのせいで高音域に自信がもてなくなっています。

彼女のプライドは、そんな今の自分が歌えば、昔の自分のファンを
ガッカリさせるだけだと、舞台にのぼることを拒否します。

しかし、他のメンバーたちは、そんなプライドよりも、
自分たちが歌っていて「楽しいか」どうかにフォーカスします。

楽しいから歌うんだ。別に、それ以上の理由はいらないんじゃないか・・・。

やはりオペラ歌手として大活躍していたレジーは言います。
「歌」と「人生」の両方はとれない。私は「人生」をとった。

歌(オペラ)を極めながら人生をエンジョイすることはできないという、
プロの世界の厳しさが滲むことばが、心に刺さります。

ただ、大舞台で歌うだけが「歌」ではないばすです。
レジーもまた、素直に「歌う」喜びに目覚めていくのです。

「椿姫」「トスカ」「リゴレット」など、オペラの楽曲が次々と登場し、
オペラファン、クラッシク音楽ファンを夢中にするでしょう。

この映画には、ある趣向が凝らされています。
それは、エンドロールまで見ないとわかりません。

現役時代だけが人生じゃない。
「老い」もまた素晴らしいじゃないか。
「老い」の賛歌ともいえるエンドロールに、
涙が洪水のようにあふれます。

ありがとう、ダスティン・ホフマン。
初監督でこんなに感動的な作品を撮ってくれて。
これは、彼が70代だからこそ作れた作品。

「老い」は、経験なんだ。そして、円熟。
そんなホフマンのメッセージに、圧倒的に勇気づけられます。

是非、劇場で見ていただきたい一本です。

樺沢 紫苑

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