カムイ外伝 - 小梶勝男

◆忍者アクションとしてのレベルの高さに驚かされた。松山ケンイチをはじめ、役者たちの身のこなしが実に見事。しかし、ドラマとしてはまとまりがなく、カムイがどんな人物なのかすら、よく分からない(73点)

 余りの評判の悪さに、ほとんど期待せずに見たのだが、忍者アクションとしてのレベルの高さに驚いた。カムイ役の松山ケンイチを始め、役者たちの動きが実にいい。ワイヤーワークも素晴らしい。日本映画では余り例がない凄いアクションではないか。

 アクション監督は、香港でスタントマンとしてジャッキー・チェンやドニー・イェンと仕事をし、「くノ一五人衆VS女ドラゴン軍団」「マスター・オブ・サンダー決戦!!封魔龍虎伝」などで独自のクンフー・アクションを開拓してきた谷垣健治。殺陣に、「ビー・バップ・ハイスクール」などでリアルなアクションを築き上げてきた高瀬将嗣が参加している。本作は、この2人の集大成ともいえるアクション映画だ。

 白土三平の原作を、「血と骨」の崔洋一が監督。脚本に宮藤官九郎。スタッフは豪華だが、ドラマとしてはまとまりがなく、主役のカムイがどんな人物なのかすら、よく分からなかった。

 これはカムイのロードムービーなのだろうか。追っ手に追われ、島に流れ着き、そこで暮らす中で、カムイは様々な人々と出逢うのだが、話に一本、筋が通っていないため、行き当たりばったりの印象を受けた。

 小雪の演じる抜け忍とカムイの関係も、お互いにどう思っているのかはっきりしない。小雪の夫、半兵衛(小林薫)も不可解だ。いくら漁に命をかけているからといえ、ただの漁師なのに藩主(佐藤浩市)の愛馬を襲うなど、行動がよく分からない。

 藩主に追われる半兵衛一家やカムイたちが、余り追っ手に煩わされることもなく、行き先でもすんなりと受け入れられるので、緊張感もない。「どこにも逃げ場がない」という怖さがあってこそ、身分社会のリアルな非情さが伝わってくるのだが、そこが抜け落ちているので、抜け忍の話なのに妙に牧歌的だ。

 また、藩主、その妻(土屋アンナ)ともやたらゲラゲラ笑ったり、ニヤニヤしたり、明らかに異常者の世界。それだけでなく、半兵衛やその他の忍者たちも、やたらに声を上げて笑う。まあ原作漫画でも「ハハハハ」とか確かに書いてあるが、それを実写でそのままやったら珍妙になってしまう。漁村のオープンセットなどはとても良く出来ていて、絵にも力があるだけに、ストーリーの弱さが悔やまれる。

 ドラマとは対照的に、アクションには興奮した。冒頭、森の中で忍者たちがカムイを追うシーンから、ワイヤーワークとCGを駆使し、木から木へ飛び移る忍者たち、飛び交う手裏剣や手刀を迫力たっぷりに描いている。

 ワイヤーワークもCGも、役者たちの身のこなしが様になっているからこそ、リアルに感じられる。松山ケンイチは相当な修練を積んだのだろう。ちょっとした体の動きが見事に忍者らしく見える。機敏さも十分だが、何か動物のような、普通とは明らかに違う動きになっていて、面白い。身を低くした走り方などもそうだ。何といっても、実写にすると明らかに変だろうと思われたカムイの秘技「飯綱落とし」がちゃんと映像化されて、しかもリアルに見えたのが凄い。小雪やその他の忍者たちも、動きが極まっていた。こっちの方の演出は申し分がなかった。

 肉眼では見えない忍者同士の超高速の動きはスローモーションで表現されている。飛び散る水飛沫や髪の乱れ様が、スローでごまかしているのでなく、ちゃんと高速の動きをスローで見せているのだな、と納得させられる。CGで描かれる鳥や魚、鮫なども、実写場面と違和感がなかった。

 これほどのアクションがあれば、もはやドラマなど必要なかったのかも知れない。もっと話をシンプルにして、アクションに徹底していれば、傑作にもなり得たと思う。

小梶勝男

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