バズ・ラーマンが描く壮大なるエピック・アクション・ロマンス!(50点)
オーストラリア大陸は1606年に白人によって発見され、1770年にジェームズ・クックを先頭に植民地化が進んだ。1828年にはイギリス領となり、先住民であるアボリジニーから土地は取り上げられ、彼らに対する迫害が続いた。今でこそ多文化主義を主張しているが、差別等による血なまぐさい歴史の多いこの大陸を舞台に時代劇、その名も『オーストラリア(原題:AUSTRALIA)』が制作された。
この映画を監督したのはオーストラリア人映画監督バズ・ラーマン。『ダンシング・ヒーロー』や『ロミオ+ジュリエット』で知られる彼は、2001年の『ムーラン・ルージュ』ではゴールデン・グローブ賞監督賞にノミネートされた。独自の美的感覚で知られる彼が『ムーラン・ルージュ』の次に選んだ題材は第2次世界大戦下のオーストラリア。素晴らしい大自然に囲まれた彼の祖国で起こった「盗まれた世代」問題のエピソードを交えつつ、壮大なロマンスを描く。
1939年、イギリス貴族のサラ・アシュリー夫人はロンドンから飛行機でオーストラリアに渡り、夫の領地を訪れるが、到着するなり夫が殺害された事を知らされ、その領地を引き継ぐ事に。牧場の支配人フレッチャーが彼女からその土地を取り上げようとする陰謀を回避しつつ、現地の牧夫ドローヴァーの助けを借り、土地を救うために9000キロも牛達と旅を始める…。
サラ・アシュリー夫人に扮するのはアカデミー賞主演女優賞に輝いたニコール・キッドマンで、彼女は英国からオーストラリアにやって来た勝ち気な貴族の女性をコミカルに演じている。サラは異国の地で今まで会った事もなかったヒュー・ジャックマン扮する野性的な男ドローヴァーと情熱的な恋に落ちる。そしてブランドン・ウォルターズ扮する「盗まれた世代」である白人とアボリジニーの混血の不思議な少年ナーラーとの出会いが彼女を変えてゆく。その他にはフレッチャーにデヴィッド・ウェナム、酒浸りの会計士フリンにジャック・トンプソン、北オーストラリアの土地を所有する男カーニーにブライアン・ブラウンが扮している。
この物語はナーラーのナレーションによって語られ、まるでお伽話でも始まるかの様なオープニングが観るものを引きつける。物語の中で、ナーラーと彼の祖父でアボリジニーの魔術師キング・ジョージの交流も描かれ、ところどころに神秘的なシーンを織り込んでいる点がバズ・ラーマンの映画である事を思い出させる。特にサラがナーラーと初めて出会うシーンはこの先魔法に満ちた物語が始まるのではないのかという期待を膨らませる。また、それは同時にサラとナーラーの関係を決定付ける重要な場面だ。
人知の及ぶ事のない自然の中で物語が展開してゆき、どんなバズ・ラーマンのマジックがわたしたちを刺激してくれるのか待ってしまうかもしれない。しかし、これシワ1つないニコール・キッドマンと生身の人間には到底見えない体を持つヒュー・ジャックマン、この「完璧」な男女のラブストーリーが軸にあり、妙な不快感が作品全体に漂っている。基本的に、彼らのラブストーリーには興味をそそられないゆえ、2時間45分の上映時間の中でもっとナーラーと彼の祖父のエピソードが散りばめられていれば、より特別な映画になっていたのではないだろうか。『風と共に去りぬ』の様な壮大なロマンスが好きな人には向いている映画だが。
バズ・ラーマンの監督映画はファンタジックでドラマチックな作風が魅力で、彼の映画に涙してしまう人も多いはず。本作ももちろん随所にお涙頂戴シーンがあるが、全てどこかで観た事がある様なものなのだ。これはラーマンのオリジナル映画というよりは名作の名場面を組み合わせて作った映画の様に感じられる。またなんとなく、映像の芸術性は見どころだが、肝心なスパイスの足りないスープの様な脚本が、出演している人種は違えどもロブ・マーシャルの『SAYURI』に近い印象を与える。
(岡本太陽)