◆多様な海の生物の愛らしさやヘンテコさは必見(60点)
2001年製作の『WATARIDORI』は、邦題だけ見ても(そう、邦題です)どんな映画なのかさっぱりわからないが(字面はホラー映画みたいですね。配給各社様、邦題を付ける際は客観的な目を持ちましょう)、飛翔する渡り鳥を空中撮影でとらえた特異なドキュメンタリーだった。その『WATARIDORI』の製作・総監督を務めたフランス人俳優のジャック・ペランが、今度は海とその生物をテーマに新たなドキュメンタリーを撮り上げた。
構想10年、製作費70億円、撮影場所は世界の50箇所、登場する生物はおよそ100種と、すべてが破格。膨大な製作費のかなりの部分は、海上や海中でも画像のぶれない様々な新型カメラの開発に費やされたという。野生生物が相手だけに待ち時間も長く、スタッフは相当な忍耐を強いられただろう。
その甲斐あって103分の作品には興味深い映像が目白押し。イワシを狙って急降下爆撃機のようにダイブするカツオドリ、繁殖のために集結する5万匹のクモガニ、目にも止まらぬ速さで獲物を丸呑みにする深海魚などは必見だ。他にも7つの海の多様な生物が、その愛らしさやヘンテコさ、ユニークな生態や圧倒的な数で、私たちを魅了する。エチゼンクラゲやコブダイといった“日本代表”も、短い出番ながら作品に華を添えた。
だが、とも思うのだ。『ディープ・ブルー』(03)や『アース』(07)の公開時にも感じたことだが、この種のドキュメンタリーを、わざわざお金を払って劇場で見る必要があるだろうか。たとえばNHKでは、非常に質の高いドキュメンタリーを製作し、あるいは海外のテレビ局から購入して、日常的に流している。衛星放送のディスカバリーチャンネルやアニマルプラネットに至っては、質はかなり劣るとはいえ24時間、ドキュメンタリーを流しっぱなしだ。「ビッグスクリーンの迫力」というのは確かにあるが、『オーシャンズ』に登場した生物の多くは、実際にはテレビ画面に収まる大きさなわけで……。
それにも増して疑問に感じるのは、環境破壊や乱獲に警鐘を発する作り手の姿勢だ。いや、もちろん、警鐘を発する行為自体はけっこうなのだが、やり方がいかにもまずい。たとえばゴミだらけの海を泳ぐアザラシの背景で、工場群がもくもくと黒煙を吐き出すショットがあった。あまりに出来過ぎなので違和感すら覚えたが、エンディングに表示された「動物が傷つく映像は演出です」というクレジットに納得。ありていに言えば「合成写真」だったんですね。ガラパゴス諸島のイグアナの背後で宇宙ロケットが打ち上げられていくシーンも、おそらく“演出”だったのだろう。
作品中にはヒレ(中華料理の食材だ)だけを切り取られたサメが海中に投棄されるシーンや、魚が漁網にかかって死んでいくシーンもある。これらはすべて“演出”だ。撮影中に動物を傷つけない配慮はドラマでもドキュメンタリーでも必要だが、そのうえで動物が傷つくシーンを作り出すのは、ドラマではOKでも、ドキュメンタリーではNGだろう。とりわけVFXの発達した現在では、それが実際の映像か、作り物の映像かを見分けるのは、ほとんど不可能だ。全体としては見事な労作であるだけに、“演出”という名のヤラセに走った作り手の勇み足が惜しまれる。
(町田敦夫)