◆舞台は大阪だが、登場人物の描写はありがちなコテコテでベタついたものではなく、感情を抑えた静かな演出なのが好感が持てる(60点)
軽すぎず、重すぎず。演出の抑制が絶妙な人間ドラマだ。初共演の大竹しのぶと宮崎あおいが母娘を演じるが、フワフワした雰囲気が共通していて本物の親子のよう。陽子と月子は、長年、母1人子1人で仲良く暮らしてきた。ある晩、陽子が、若い金髪の男・研二を連れてきて「おかあさん、この人と結婚することにしたから」と爆弾発言。あまりに突然の陽子の言葉に、月子は裏切られた思いで家を飛び出してしまう。周囲の者たちは、なんとか二人をとりなそうとするが、母娘にはそれぞれ、心に傷があったり、言い出せない秘密があって…。
原作は咲乃月音の日本ラブストーリー大賞受賞作だが、内容は、恋愛ものではなく母と娘の絆の物語だ。監督の呉美保は「酒井家のしあわせ」でも、秘密をかかえながら互いを思いあう家族の姿を描いたが、今回は母一人子一人、女どうしということで、わだかまりも複雑だ。母が唐突に結婚宣言をして娘を突き放すようなマネをするには理由がある。月子は、会社に勤めているとき、ある男性から理不尽な扱いを受け、それ以来引きこもりのような状態なのだが、このままで一生過ごせるわけはない。母の陽子の結婚相手・研二は、元板前だけあって料理の腕はプロ級、見た目とは裏腹に思いやりにあふれた好青年だ。人はみかけだけでは判断できず、つきあってみて始めて長所も短所もわかる。そのためには小さくて安全な世界から出てみるしかない。月子の心の扉を開けるため、母の結婚が強引なカンフル剤となっている。さらに陽子にもなかなか娘には言いだせない、ある秘密が。その秘密はヘタするとお涙ちょうだいになってしまうものだが、この映画ではそうはならない。軽妙なセリフの中にいたわりを感じさせるため、白無垢姿の母とそれをみつめる娘の和解の場面がごく自然な感動を生んでいる。母娘はときに辛らつな言葉やキツいまなざしをぶつけ合うが、なぜか激しさよりもコミカルな雰囲気なのは、やわらかな関西の言葉のおかげだろう。ただし、舞台は大阪だが、登場人物の描写は、ありがちなコテコテでベタついたものではなく、感情を抑えた静かな演出なのが好感が持てる。母娘が素直になって、それぞれの勇気ある旅立ちを迎える物語は、見終わってじんわりとした温もりが残った。古いおまじないの言葉「つるかめ、つるかめ」が微笑ましい。
(渡まち子)