敵は侵略者なのだから徹底的に排除しなくてはならないというマッチョな思想に一石を投じるアメリカの良心と云えるべき作品(点数 82点)
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この作品では侵攻してきた敵を完膚なきまで破壊する徹底した戦闘部隊を組織する国際艦隊だが、この組織のポリシーは第二次大戦後のアメリカの強硬な外交政策を踏襲している。
宇宙人の来襲によってようやく人類が団結するようになっても過去の教訓をまったく活かさず同じような憎しみを宇宙人に向ける愚かさを映画は指摘しているのだが、その疑問を主人公と一緒に抱きながら観客は最後まで見届けることになる。
分子の結合を解き原子レベルまで粉砕する大量破壊兵器の通名が「リトル・ドクター」。
また広島に落とした核分裂型原子爆弾のニックネームが「リトル・ボーイ」。
この奇妙な相似は西欧とは相容れない異質な文化としてフォーミックと呼ばれる昆虫型宇宙人を描き、日本人のイメージを重ねていると邪推してもあながち的が外れているとも言い難い。
今までアメリカが蹂躙してきた国への悔悟がこの作品に込められているような気がした。
オチをばらさないとの誓約書まで書かされたので明かしはしないが、ビデオーゲームに慣れ親しんでいる子供の心理の盲点を突いた描写が物語の佳境にある。それは観てのお楽しみだ。
少子化政策が採られている未来の地球だが、第一子が天才児だったために三人目まで出産を認められた家庭がエンダーに生を授けるという設定なのだけれど、50年前にフォーミックからの侵略を受けて数千万人の人命が失われたのにもかかわらず未だに少子化政策が採られている理由が分からなかった。
戦時下であるので普通ならば富国強兵・殖産興業が奨励されるはずである。
また、その時代では星間航行が可能になっているらしいので人口を抑制しなければならない空間的制約は無くなっているはずなのだ。
宇宙に広がるフロンティアを開拓するために人員が必要になるはずである。
本作ではエンダーを士官候補生に抜擢する訓練学校の責任者をハリソン・フォードが演じているが彼の老獪な役どころが良く似合っていて作品のクオリティに大きく寄与している。
彼のマッチョな言動を軸に置いてストーリーを追っているとネガとポジが入れ替わるようなコペルニクス的転回に遭遇することになる。
まあ、おとなは汚い。
ハリソン・フォードは今回の役でおとなの狡さ冷酷さを一身に引き受けている。
ハリソン・フォードの好演(?)にも注目したい。
(青森 学)