エレジー - 福本次郎

年老いてもなお衰えない欲望。愛、嫉妬、躊躇・・・。年を取るよりも分別くさくなることを心配するという、性的にラジカルであり続けようという男の恋を描くことで、枯れない老人というのは恥をかくことを恐れない人だと教えてくれる。(70点)

エレジー

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 年老いてもなお衰えることのない女への欲望。それはただ性欲を満たせばよいという単純なものではなく、精神的な充足感も得られなければならない。愛、嫉妬、躊躇。年を取る心配よりも分別くさくなることを心配するという、いまだ性的にラジカルであり続けようという男の恋を描くことで、枯れない老人というのは恥をかくことを恐れない人だと教えてくれる。煩悩に憑りつかれた老学者をベン・キングスレーが好演。死が身近なものになっても生のエネルギーを発散させるさまは潔さすら感じさせる。

 大学教授のデヴィッドは美しい教え子・コンスエラに一目ぼれする。ゼミ終了後のパーティで彼女に声をかけ、たちまち口説き落とす。その後ふたりは交際を続けるが、デヴィッドの愛人キャロラインがコンスエラの存在に気付く。

 もはやデヴィッドは60歳を過ぎているのだろう。それでもコンスエラを思うたびに心をときめかせ、彼女のふとした言動に苛立つ。そしてふたりの進展具合を古い付き合いの友人に報告する。老人同士が恋を議論しあうのは一種異様な光景だが、その真剣さはまだ人生に向き合っている証拠だ。さらにデヴィッドの息子が不倫の悩みを相談に来るが、ここまで恋愛についてオープンに語れるニューヨーク人種のメンタリティは理解外である半面、うらやましくもある。

 家族に紹介しようとするコンスエラの誘いを断り続けるデヴィッド。それは自らの年齢に対する負い目であると共に、彼女が本気で愛してくれるほどその先に結婚という文字がちらついてきて、ときどき恋人が訪れるだけの快適な1人暮らしを邪魔されたくないという気持ちが先にたっているから。自分勝手な男であるデヴィッドが最後にコンスエラを受け入れるのは、彼女がガンで片乳房を失い、完璧な美貌を失って女としての自信をなくしているからだろう。だからこそ、初めてデヴィッドはコンスエラに寄り添う決意する。冬の海岸、ふたりの間にセックスを超えた絆が生まれるラストシーンはどこまでも余韻を残す。

福本次郎

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