エッセンシャル・キリング - 福本次郎

戦争の悲劇を皮膚感覚で伝える作品だった。 (点数 70点)


(C) Skopia Film, Cylinder Production, Element Pictures, Mythberg Films, Syrena Films, Canal+ Poland. All rights reserved.

孤独と絶望、寒さと飢え。男はこれらの精神的肉体的困難と直面しな
がらひたすら逃げる。地図もコンパスもなく、自分がどこにいるのか
もわからない。それでも生きのびるために歩き、殺し、隠れる。映画
は捕虜となったタリバン兵が脱走、安全な場所を探してさまよう姿を
追う。その過程で、アリを食べ、樹皮を噛み砕き、木の実を頬張り、
生きた魚にかぶりつく男の、すさまじいまでの生への執念を描き切る。

米軍ヘリに捕まったムハンマドは、移送中の車両事故で車外に放り出
される。裸足のまま雪原に身をひそめた後、停車中の車から拳銃と衣
類を奪い、追手をまくために雪深い山に入っていく。

疲れ果て傷ついても、決してくじけないムハンマド。情報は一切ない
状況下では、逃亡を続けることこそが彼にとっての闘いなのだ。必要
とあらば容赦はしないが無用な殺人は避ける。その手負いの虎のよう
なまなざしが彼の不屈の魂を物語る。そんなムハンマドにカメラはず
っと寄り添い、彼の息遣いが聞こえるような距離感で、恐怖という感
情、苦痛という感覚を超越した戦士の表情をリアルにとらえていく。
彼の口からは一切言葉は発せられない。そこからは、どんなことがあ
っても生きて帰る彼の決意の固さがうかがえる。

途方もない道のりの途中、脳裏に浮かんだ青いヴェールの女は彼の妻
なのだろう、きっと待ってくれているはずの家族のために消耗した体
を鞭打つ。戦争の悲劇を皮膚感覚で伝える作品だった。

福本次郎

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