エスター - 小梶勝男

◆夫婦間にありがちな様々な問題を巧みに取り入れた脚本がよく出来ている。エスター役のイザベル・ファーマンの怪演が最大の見どころ(80点)

 洗面台の鏡が収納スペースの扉になっているタイプがある。中には大抵、薬が入っている。主人公の女性が薬を取り出し、扉を閉めたとする。そのとき、鏡に何が映っているだろうか?

 ホラー映画では、バーンという効果音とともに、女性の顔が不気味に変わっていたり、後ろに殺人鬼や幽霊の姿が映り込んだりしているのが普通だ。ところが、本作で鏡に映っていたのは、女性の夫。ビックリさせてごめん、というわけだ。

 監督のハウメ・コジェ=セラは「蝋人形の館」(2005)で堅実な演出が印象的だった人。本作でも、誠実にホラー的な演出を繰り返している。怖い場面も、そうでなくても、いかにも怖いような見せ方をし続ける。確かにコケオドシではあるが、延々とやられると、ボディ・ブローのように効いてくる。それが映画全体の雰囲気を作り上げていた。

 3人目の子供を死産してしまったコールマン夫妻が、エスターというロシア生まれの9歳の女の子を養子に迎える。それ以来、夫妻の周囲で次々と謎めいた事件が起こる。事件の現場には、必ずエスターがいた。

 ホラーというより、スリラー、サスペンスといった方がいいかも知れない。脚本がとてもよく出来ている。死産、子供の事故、アルコール中毒、浮気など、家族や夫婦の間にありがちな様々な問題、不幸を巧みに話に取り入れて、リアリティーを持たせている。衝撃の結末は途中で何となく「そうじゃないか」と思ったが、それでも驚かされた。

 ベラ・ファーミガとピーター・サースガードが、コールマン夫妻の揺れる気持ちを巧みに演じていた。そして、エスター役のイザベル・ファーマンの怪演が素晴らしい。本作の最大の見どころだろう。この役は彼女にしか出来ない、と思わせる迫力があった。

 雪と氷に閉ざされたカナダのトロントの寒々しい風景が、次第に離ればなれになる夫妻の心の寒々しさや、エスターの「正体」を表現しているようだった。

 本作はロバート・ゼメキスとジョエル・シルバーが設立したダーク・キャッスル・エンターテイメントの提携作だが、あのレオナルド・ディカプリオが製作に参加している。

小梶勝男

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