ウディ・アレンの夢と犯罪 - 前田有一

◆ライト感覚の古風な犯罪ドラマだが、決して古臭くはない(70点)

 毎週同じ場所でジャズを演奏し、毎年ほとんど同じフォーマットで映画を作る。そんな神経症的な映画監督ウディ・アレンの新作は、監督本人が「悲劇」と呼ぶ犯罪ドラマ。

 舞台はロンドン。労働者階級として、しがない父の食堂を手伝う兄(ユアン・マクレガー)と、自動車修理工場で働く弟(コリン・ファレル)は、あるとき思い切って中古のヨットを購入する。ヨットとともに運気も上昇する二人だったが、その先に思わぬ落とし穴が待ち受けていた。

 ウディ・アレン自身は出演していないし、確かに悲劇といえばそうなのだが、見ようによっては喜劇そのもの。どちらも表裏一体ということか。

 さて、この仲良し兄弟はやがてカネによって破滅の危機に直面するが、そこに救世主が現れる。それは、ある男を殺せば大金をくれるという、ちょっぴりキツい3K仕事の依頼なのだが、二人は真剣にその依頼を受けるか悩むことに。

 ここでユニークなのは、借金で首の回らない弟でなく、金さえあれば女優の恋人といい暮らしができると考える兄のほうが殺人に積極的になる展開。つまり、カネに追い詰められて殺すのでなく、下層社会から這い上がるために人を殺すということである。ここに、この監督(脚本も担当)の時代を見る目が生きている。

 現代は格差社会といわれるが、より問題なのは格差があることよりも、格差が固定されていること。一度下に落ちたら、二度と這い上がれない。いや、そもそも下層に生まれついたら、一生下層で生きるほかないという、そこに人々の最大の不満があることをこの監督は鋭く見抜いている。だからこういうストーリーにしたわけだ。

 たしかに借金に困って人殺し、なんてのは古臭いし、いまどき面白くもなんともない。労働者階級から抜け出すために人殺しをしようと決意する人間を描いてこそ、いま作るに値するストーリーだというアレン監督の判断はきわめてまっとうである。

 74歳にしてこの鋭い時代感覚。まだまだ当分は第一線で活躍しそうな勢いである。

前田有一

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