◆ケレン味あふれる映像表現は興奮度100%!(90点)
アクション映画の中には「予告編で見たシーン以外には見せ場がありませんでした」と言いたくなるようなズッコケ作品も少なくないが、この『ウォンテッド』は明らかに本物! オープニングの超人的な襲撃&反撃シーンで観客を引きこむと、休む間もなくスタイリッシュな銃撃戦に、ケレン味いっぱいのカーチェイス。アンジー姐さんは登場するなり、眉間にしわを寄せて銃を乱射し、疾走する車のボンネット上でイナバウアーだ。ここまでの20分間だけで早くも映画料金の元は取れると断言できるが、ジェームズ・マカヴォイ演じる主人公が能動的にストーリーに関わってくるのは実はそこからだ。
原作は映画『マトリックス』に触発されて書かれたグラフィックノベルだそうで、なるほど物語の導入部には既視感が。ただし本作の作り手は小難しいサイバーSFの世界に踏みこむのは避け、わかりやすいアクション・エンターテインメントに徹している。メガホンをとったティムール・ベクマンベトフは、『ナイト・ウォッチ/NOCHNOI DOZOR』や『デイ・ウォッチ』といったロシア時代の作品で注目された監督。ハリウッドでの処女作となる本作でも、異彩を放つ映像表現を見せ、改めて鬼才ぶりを証明した。
本作の何がすごいって、見たこともないシーンが目白押し。ライフル弾の射出から命中までをあえて逆回しで追った映像は、オープニングとエンディングで効果的に繰り返される。その他にも飛んでいるハエの羽根だけを撃ち落としたり、飛翔する銃弾を別の銃弾で迎撃したりと、VFXなしにはとても映像化不可能な超絶技巧が次々と登場。極めつけは銃を撃つ腕をスイングさせることで弾道を曲げるというテクニックだ。まじめに考えればあり得ないけど、言われてみればできそうで、これはまさにコロンブスの卵。シンプルなアイデアなのに、どうして今まで使われなかったのだろう?
負け犬だった主人公が自分でも知らなかった特殊能力に目覚めるという展開は、私たち小市民全員の夢。暗殺者版の「虎の穴」に入った主人公は、殴られ、刺されの地獄の特訓を受けるのだが、『ナルニア国物語』では白い魔女(ティルダ・スウィントン)に、『ラストキング・オブ・スコットランド』ではアミン大統領(フォレスト・ウィテカー)にいたぶられたマカヴォイにとって、この手の演技はお手の物だ。緩急を利かせた脚本は、適度な遊び心を交えつつ、主人公の成長と苦悩、出生の秘密と裏切り、危機と反撃を描きだす。ラストシーンで「最近、何かした?」と問いかける主人公に、あなたならどう答える?
(町田敦夫)