ウォルト・ディズニーの約束 - 青森 学

本来、クリエイターとは気難しいもの。そんな事情を垣間見ることが出来る作品(点数 86点)


(C)2013 Disney Enterprises, Inc.

映画化権の譲渡をひたすら拒絶するトラバースの頑固さ意地の悪さが観ていると最初はそれでこそ共感を阻むのだが、トラバースの過去がストーリーの中で交差するように現れると次第に彼女が頑なに映画化を拒む理由が明らかになってくるのだ。

終盤まで見ているとトラバースが『メアリー・ポピンズ』に託した想いが理解出来るようになる。それまではトラバースが小姑のごとく、作曲を担当していているシャーマン兄弟をいじめるシーンに苦笑しながら付き合わなくてはならない。

『メアリー・ポピンズ』とは砂糖にまぶされた只甘ったるいだけの児童書ではなく、人生の教訓や示唆に富んだ子供が厳しい現実へ向き合うための人生の手引書の意味が込められていることが明らかになる。
トラバースがウォルト・ディズニーと映画化権をめぐる対立が激化したのはウォルトが早くから社会的成功を収めている一方で新作が出せず世間から忘却されようとしたトラバースとの差が、トラバースがウォルトをクリエイターとしては認めたくなかったと考えられる。
そもそもクリエイターの作品とは自分の人生を削ってまでして生み出すものでありトラバースの『メアリー・ポピンズ』はまさにそうやって生み出された作品だった。
トラバースにとっては当初はウォルト・ディズニーを商業主義のアメリカで成功した金の亡者くらいにしか見えなかったのだろう。映画ではトラバースの視点で語られているので主人公はトラバースなのだが、トラバースの不信は鑑賞者である観客も同じであって一代にして成功したウォルト・ディズニーへの疑問である。
だが、ウォルトは『メアリー・ポピンズ』を映画化するために粘り強くトラバースと交渉していく。交渉の中でウォルトはトラバースにある約束をするのだが、それでトラバースはウォルトが単なる金満家ではなく自分と同じクリエイターのスピリットを持つ同志であることに気がつく。
そのウォルトがトラバースにした“約束”とは何か?それは映画を観て確認して頂きたい。
付け加えるがウォルト・ディズニーがどんなクリエイターだったのか、東日本大震災の時にディズニーランドのスタッフがとった対応から見ても明らかのように思う。あのホスピタビリティにウォルトの遺志は受け継がれているのだ。

今作は『メリー・ポピンズ』の製作秘話を明かすだけでなく、クリエイティブとは何か、クリエイターとは何をもってしてクリエイターであるのかそういったアーティストの心裏まで描き切っている点を留意すれば多くの発見がある作品である。

青森 学

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