◆ファンのために作られた完全版。人間とアンドロイドの心の交流を描いた傑作アニメ(80点)
現役中学生から『エヴァンゲリオン』を観ていた大人まで楽しめるのがこのアニメ、『イヴの時間 劇場版』だ。本作はインターネットで順次配信されていた1話約15分のアニメ全6話を再編集し、さらに追加シーンを加えた完全版として公開された。
アンドロイドが実用化されて間もない時代。ロボット倫理委員会はアンドロイドを“家電”として扱うよう人々に注意していたが、人間と全く変わらない外見をしているアンドロイドに入れ込む若者も現れ社会問題となっていた。高校生のリクオも自家用アンドロイドのサミィを持っていたが、ある時、サミィの行動記録に不審な点を見つけてしまう。リクオが友人のマサキと訪れたその不審な場所は“人間とロボットの区別をしない”という不思議な喫茶店「イヴの時間」だった。
『イヴの時間 劇場版』は、これまで多くのSF作品が描いてきたものと同じく“人間とアンドロイドの関係”をテーマにしている。未来の話だが人間にそっくりなアンドロイドがいること以外、現代と比べてあまり技術の開きがないようにみえるため、すんなりとその世界観に入り込めるだろう。
物語はリクオの自宅、高校、そして「イヴの時間」の3つの場所を舞台に進行していき、「イヴの時間」では理想、高校では現実、そして自宅では理想と現実の狭間の世界が描かれる。一体どの場所が本来あるべきトコロなのか? 本作はそれを観客に問いかける。
あらかじめ15分ごとに区切られた話を1本に再編集しているためか、ストーリーそのものに冗長な点は一切なく、約90分の上映時間は瞬く間に過ぎ去ってしまう。もちろん、そのあいだに観客は何度も驚かされることとなる。
人間同士の関係ですら希薄になってきている現代。はたして未来で人間とアンドロイドはどういう関係になるのだろうか? 思春期の青少年、そして人間関係に悩む大人たちは、『イヴの時間 劇場版』を観て自分の中のモヤモヤをスッキリさせるきっかけにして欲しい。
■ 従来のファンにとっては全く別の作品に?
『イヴの時間 劇場版』は、ご存知の通りすでに公開されていた全6話のアニメを再編集したものだ。そのため、アニメ版のファンにとっては“同じアニメを2度鑑賞する”ことになってしまう。
もちろん面白い作品は何度観ても面白いものだが、本作はまた違った“イブの時間”の面白さを魅せてくれる。追加された新シーンには、これまでの解釈を大きく変えさせる物語が描かれているからだ。
時間にしてほんの数分しかないこの新たなシーンは、これまでの疑問を解決させたうえ、さらに大きな謎をファンに提供してくれる。ファースト・シーズンの完全版は、セカンド・シーズンへの期待を膨らませてくれる1本でもあったのだ。
スタッフロールが流れても、ぜひそのまま最後まで席に座っていて欲しい。これを見逃してしまっては、せっかく劇場版を観に来た意味もなくなってしまう。本作はまさに劇場版の名に相応しい仕上がりだった。ファンの方はくれぐれも見逃さないように。