◆文明や貨幣を否定し、大自然の中で究極の自由を得る。何者にも束縛されない魂、それは一方で食料は自力で調達するということ。人生の真理を求めて旅する若者が体験する生の実感と死の恐怖を通じて、生きる価値とは何かを問う。(60点)
物質文明や貨幣経済を否定し、あらゆるしがらみを絶つことで大自然の一員となり究極の自由を得る。何者にも束縛されない魂の彷徨、それは一方で食べるものは自力で調達しなければならないということ。社会の義務から解放されても栄養を取るという行為にはより負荷がかかり、精神の高揚とは裏腹に肉体の力は失われていく。人生の真理を求めてアラスカの荒野に挑んだ若者が体験する生の実感と死の恐怖を通じて、生きる価値とは何かを問う。荒々しくも美しい風景のなかで、大地と人間の対比を余すことなくとられたカメラがすばらしい。
大学を優秀な成績で卒業したクリスは両親の期待に背いて放浪を始める。身の回りのものだけをバックパックに詰め、ヒッピーの車に同乗したり農園で働いたり急流下りをした後、アラスカに向かう。
仲の悪い両親の前で優等生を演じていたクリスは大学卒業と同時に、快適な生活にピリオドを打つ。もともと複雑な事情で家庭に対する思いが希薄だっただけに、愛の足かせから逃れたかったのだろう。連絡を絶ち、度胸と体力だけを頼りに時に身を危険にさらす旅は続く。その過程で愛し合うカップルや愛を説く老ヒッピー、更に皮革職人と知り合うが、クリスは「孤独」という立場を崩さない。「幸福が現実になるのは誰かと分かちあった時だ」というセリフとは逆に、クリスはその喜びをひとりだけで感じようとする。
アラスカに渡ったクリスは原野を踏破し川を渡り森を抜け、打ち捨てられたバスに住居を定める。動物を仕留め肉を食らうが、雪解けと共に動物も少なくなり川の増水で街にも戻れない。やがて食料に困った挙句、毒草を口にしてしまう。衰弱し、朦朧とした意識の中で見たヴィジョンこそ、彼が捜し求めていた真理だったはず。それは両親との笑顔に満ちた再会。結局、家族という最小単位の人間関係すら拒否したクリスが、最期にたどり着いたのが家族の愛という皮肉。息を引き取る前にそれを知っただけでも彼の生涯は有意義だったと思うべきだろうか。。。
(福本次郎)