インセプション - 岡本太陽

インセプション

© 2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

◆クリストファー・ノーランの新しいコンセプト(80点)

 『ダークナイト』で『タイタニック』に迫る興行成績を叩きだした映画監督クリストファー・ノーラン。彼の手掛ける『バットマン』シリーズの続編が期待される中、レオナルド・ディカプリオ主演のSFアクション映画『インセプション(原題:INCEPTION)』が先に世に送り出された。『メメント』から始まったノーランの伝説。明晰夢にインスパイアされた本作もまた彼ならではの感覚を刺激する作品。1億6千万ドルという巨額な制作費を投じた本作にわたしたちの常識は覆されるばかりだ。

 ドミニク・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は人が眠っている間に潜在意識に侵入し、人の持つアイデアを盗み出すプロ。サイトー(渡辺謙)に依頼を受け、コブと彼のチームはサイトーのライバル会社を父親から譲り受けようとしているロバート・フィッシャー(キリアン・マーフィー)の夢に潜入し、彼に会社を解体させるというアイデアを植え付ける任務を遂行しようとする。ところが、ロバートの夢の中にいる護衛達、コブの死んだ妻モル(マリオン・コティヤール)からの妨害を受けるチーム。彼らは果たして任務を遂行する事が出来るのだろうか。

 コブのチームには、サイトーの他、長年共に仕事をしてきたアーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)、夢の世界を作りあげる建築家のアリアドネ(エレン・ペイジ)、他人になりすます能力を持つイームス(トム・ハーディ)、チームの夢を安定させる鎮静剤を作る調合師のユセフ(ディリープ・ラオ)を含む6人がおり、それぞれを個性豊かな俳優達が演じている。またキリアン・マーフィやマイケル・ケイン等、ノーラン作品の常連組の姿もあり、キャストだけでも満足させてくれそうな作品だ。

 アルゼンチン人作家のホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説等に影響を受け、約10年もの年月を要しノーランは本作の脚本を書き上げた。それは夢を映像として見せるには多額の制作費が必要、とノーランが判断したためで、彼の今回の映像面へのこだわりは過去最高とも言える。フィルム・ノワール調の雰囲気の中で物語は展開し、折り畳まれる街、ペンローズの階段等、随所に革命的映像が散りばめられている。特に、ジョセフ・ゴードン=レヴィットの無重力でのフィストファイトは必見だ。

 夢は潜在意識を投影させるが、映画も夢と同じ様に人間の潜在意識を映し出す。これは『スラヴォイ・ジジェクによる倒錯的映画ガイド』という映画で説明されている。そういう意味で、コブの夢の中では欲望や恐怖が色濃く反映されているが、その他の登場人物の夢の中はほとんど全てが整然としており、夢というリミットレスな世界がうまく描かれていない様にも見受けられる。しかし、ノーラン氏は本作を『オーシャンズ11』や『ミニミニ大作戦』の様な犯罪映画として制作しており、登場人物たちにとって夢は彼らのビジネスの場、彼らが得たいものを得られる様、仕事場が働きやすい状態になっているのだ。

 ノーランの作品の多くは観客までもが映画の登場人物同様トリックにかかってしまう傾向にある。本作でも夢から夢へと登場人物たちが移動し、一筋縄ではいかない物語は更に複雑化する。それと同時にわたしたちの思考も試され、よくぞこの映画を巨額な制作費を投じてハリウッドで作ったな、と賞賛したくなる。

 『インセプション』はかなりダークな面も持ち合わせている為、『オーシャンズ11』の様な小粋な犯罪映画とはいかない。しかし、エディット・ピアフの「水に流して」を夢から現実に戻る際の合図にしているなど、『ダークナイト』で、あれだけ凶暴な性格のジョーカーをコミカルに描いただけあり、ユーモアも欠かないところがやはりノーランらしい。映画監督クリストファー・ノーランはわたしたちの感覚を刺激するばかりか、映画界をも刺激する紛れもない逸材だ。

岡本太陽

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