インセプション - 福本次郎

インセプション

© 2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

◆複雑な構成は主人公が軸足を置いている現実も夢なのではという疑問にさらされる。時間も空間も歪み重力さえなくなる夢の世界は細部にまでリアリティが宿り、圧倒的な情報量は視覚的表現の可能性のさらなる進化を実感させる。(80点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 夢の中では夢こそがリアル。他人の潜在意識に侵入し、同じ夢をみることで秘密を盗み出す技術を生業にしている男が、ターゲットの頭の中にアイデアを植え付ける=インセプションに挑む。もはや夢と覚醒の境界線は曖昧になり、夢の中の夢の中の夢の中の夢という恐ろしく複雑で壮大な構成に、主人公が軸足を置いている現実でさえ夢なのではという疑問にさらされる。時間も空間も歪み重力さえなくなる夢の情景を描いた映像は細部にまでリアリティが宿り、圧倒的な情報量は視覚的表現の可能性のさらなる進化を実感させる。

 他人と夢を共有する特殊技能を持つコブは、大富豪・ロバートの記憶にある情報の植え付けを請け負う。仲間を募り計画を練り実行に移すが、ロバートは夢の侵入者に対する防御法を心得ていて思わぬ反撃にあう。

 コブにはモルという美しい妻がいたのだが、彼女はコブと夢のシェアした結果、夢の中の幸福を真実と信じ込むようになり、夢の中で気持ちだけ年老いた挙句自殺してしまう。モルの死がトラウマとして残るコブは、任務の途中たびたびモルに邪魔をされ、窮地に陥る。他者の夢をコントロールする男が、己の罪悪感に振り回される皮肉。家族と過ごした美しい思い出と後戻りできない人生、意識の深層に潜む「願い」が夢の展開を左右するのだ。

 結局、コブたちはロバートの意識の最深部に眠る「金庫」を開け、彼の「願い」を解放する。そこには偉大な父親の縮小コピーとして生きてきた彼への「自分の道を進め」という遺言が、子供のころ愛された写真とともに納められている。コブたちにインセププションされたのに、夢から覚めたロバートが晴れやかな表情なのは、心のしこりになっていた父との確執の原因が解明され進むべき道が明らかになったからだろう。一方で、「モルへの罪悪感」にとらわれてしまったコブも、二人の子供と再会する。それは、夢の中で死にかけている仲間を救うために自らの身を危険にさらしたコブが、モルの死に対する贖罪を果たしたと納得して作り出した「コマが回り続ける世界」。夢の中での状況や背景はあくまで客観世界の投影であるのに、そこでの出来事は潜在意識の発露であることを思い出させてくれる作品だった。

福本次郎

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